「7つの習慣」が出版されてから25年、スティーブン・R・コヴィー博士の「影響の輪」は地球全体に広がっています。彼は国王や大統領と意見を交わし、考えられる限りの手段で、何百万もの人々に影響を与える生き方の原則を教えました。2012年に亡くなるまで、世界で最も影響力のある人のひとりにも選ばれ、著作「7つの習慣」は今世紀最も重要な自己啓発書となっています。
コヴィー博士は生涯、「7つの習慣」を教え続けました。そして激動の時代には特に、博士の深い英知が求められたのです。ここでは、晩年のコヴィー博士がインタビューやスピーチでよく尋ねられた重要な質問に対して、博士自身が語った晩年の思想を一問一答形式でご紹介します。
変化それ自体が変わりました。変化は、私たちの想像を超える勢いで加速しています。技術革新は1時間ごとに起こっているかのようです。経済の先行きは不透明で、世界の力関係は一夜にして劇的に変化します。そして、世界の大部分が恐怖におののいています―心理学的な意味でも、その言葉通りの意味でも。
また、私たち一人ひとりの生活も劇的に変化しています。生活のペースは今や光の速さです。私たちは24時間365日、仕事に縛られています。昔は少ない労力でより多くのことをしようと努力していましたが、現在では、私たちの多くが自力で全てのことを一度にしようとしています。
しかし、一つだけ変わっていないこと、これからも決して変わらないこと、信頼できることがあります。それは、時代を超えした不変の原則が存在するという事実です。これらの原則は決して変わりません。いつでも、世界中どこでも通用します。建物から落ちたらどうなるか、その結果は重力という自然の法則に影響を受けます。それと同じように、公正、正直、尊敬、洞察、説明責任、率先力といった原則は私たちの人生を支配し、影響を与えています。建物の端を踏み越えたら、落ちます。それが自然の法則です。だからこそ、私は根本的に楽観主義者なのです。私が楽観主義者なのは、変わらない原則を信じているからです。原則に従って生きれば、原則が私たちの役に立つことを知っているからです。
私たちは、建物から落下する岩とは違い、飛び降りるかどうか自分で選ぶことができます。私たち人間は、人以外の力に無自覚に振り回される存在ではありません。私たち人間は、良心、想像力、自覚、意志を生まれながらに持っています。
これらは、動物には与えられていないすばらしい天賦の能力です。私たちは善悪を判断できます。自分と他者を区別し、自分の行動を評価できます。過去の記憶にとらわれず、想像力を働かせ、望む未来を生きることができます。これらの生まれ持った能力を使えば使うほど、選択の自由は広がります。原則を自分のプラスになるように使うのも、マイナスになるように使うのも、私たち自身の選択なのです。
私はこの選択能力をフルに活用しています。変化を受け入れて生きるには、変わらない原則が必要です。しかし、問題が1つあります。非常に多くの人たちが人生の原則を回避し、近道をしようとしていることです。しかもそのような人たちの数は増えているように思われます。愛を求めていながら、献身はしない。対価を支払わずに成功したいと思う。痩せたいと望みながら、ケーキも食べたい。つまり私たちは、優れた人格を築かず、優れた人格が得られるものを得ようとしているのです。これは絶対にありえません。
私が「7つの習慣」を書いた理由はそこにあります。私たちの文化は、これらの原則から切り離され、漂っていると思います。私は、原則を無視した結果は人生の破滅しかないことを指摘したいのです。しかし同様に、原則に従って生きることで、長い目で見れば私生活でも仕事でも成功することができます。
「7つの習慣」の意義はますます高まっていると思います。
私ほど「7つの習慣」の影響力に驚き、謙虚な気持ちになり、感動した人は他にはいないのではないでしょうか。私はいつも、この本が多くの国の多くの人々に及ぼす影響に驚嘆しています。私の多くの同僚や友人たちが、これらの習慣を実践し、教えるという課題に取り組んでいることに感謝しています。
もちろん、私も皆さんと同じように、「7つの習慣」の実践に奮闘する毎日です。「7つの習慣」を実践することは簡単ではありません。挑戦です。毎朝起きるたびに、人生における自分の使命や重要な目標について考え、最も有意義なものに向かって一歩ずつ進んでいく意欲を与えてくれます。なかでも、「第5の習慣 まず理解に徹し、そして理解される」を実践するのは難しいですね。私は、忍耐強い、良い聞き手になろうと努力し、少しは進歩していると思います。
確かなのは、「7つの習慣」を実践することは、生涯にわたる刺激的なチャレンジであるということです。ですから、人から本を読んだと言われると心配になります。本に書いたことと違う何かをその人が私に感じるのではないかと不安になるのです。また、本を読めば一晩で効果が現れると誤解されやしないかとも不安になります。「7つの習慣」の実践に終わりはないのだというメッセージを真剣に受け止めてほしいと思います。
世界中の多くの人たちが「7つの習慣」のセミナーを受け、何千人もの人たちが組織内で「7つの習慣」を教える資格を取得していることをうれしく思います。140カ国以上の人々が、インターネットや教室での「7つの習慣」セミナーに参加しています。さらにすばらしいのは、学校に通う何万人もの子どもたちが「7つの習慣」を学習していることです。企業、政府機関、大学、学校が「7つの習慣」を組織全体の理念として導入し、すばらしい成功を収めている例でもあります。
「7つの習慣」が多くの人々の人生に影響を及ぼし続けているのはなぜでしょうか。人々が自分の理想像を見つけ、それに従って生きる手助けをするからだと思います。人々は、特に若者たちは「7つの習慣」に盛り込まれている原則の力を本能的に感じとっています。そして人生を近道するのではなく掘り下げたいと思っています。忙しすぎる世界の中で自分を見失った人々は、再び自らの運命を自分で切り開きたいと思っているのです。
「7つの習慣」は人々に人生を取り戻させます。人々は選択する力を取り戻し、最も深い、最も大切な目的を探求し、発見します。自分自身の未来を創造し、切り開くための道具を手に入れるのです。
昨今は、個人情報を盗むなりすまし犯罪についていろいろ耳にしますが、最大のなりすまし犯罪は、財布を取られたり、クレジットカードを盗まれたりすることではありません。自分が本当は何者であるかを忘れ、私たち一人ひとりに計り知れない価値と可能性があることに気づかず、他人と比較して自分の価値とアイデンティティを決めてしまうことです。真の成功に必要な対価を払わずに、楽をしようとする文化にどっぷりと浸かっていると、自己を喪失してしまうのです。
家庭でも、友達との関係でも、職場でも、私たちは絶えず見かけのセルフイメージを保とうとします。鏡を見つけた瞬間から、人は魂を失い始めました。真の自分ではなく、自分のイメージにとらわれるようになり、社会的な鏡に映る自分を自分だと思うようになりました。アイデンティティと価値観の中心が自分の外に移動してしまったのです。
「7つの習慣」は、あなたをあなた自身に戻します。「7つの習慣」は、あなたにあなたの本質を思い出させます。あなたの人生を支配するのはあなた自身であることを思い出させます。あなたの選択に責任を持つのは、他の誰でもない、あなた自身です。あなた以外の誰も、あなたが自分自身のために選ばないことを考えさせたり、行わせたり、感じさせたりすることはできません。「7つの習慣」は、あなたはプログラマーであり、自分の将来のプログラムを自分で書けることを思い出させます。人生はチームスポーツであり、互いに協力する相互依存は、自立よりも上の状態であることを私たちに教えてくれます。
人生で変化を遂げるためには、2つのことを実践するとよいでしょう。1つは、自分の良心に従うことです。私はよく、刺激(私たちに対して起こること)と反応(刺激に対して私たちがすること)の間には選択するスペースがあり、そのスペースで何をするかが、最終的には私たちの成長と幸せを決めるのだという考え方について話します。このスペースには、人である私たちが生まれながらに持っている良心、想像、自覚、意志があります。4つのうちの良心が残り3つを支配しています。
多くの場合、人生が平穏ではないのは良心に従わずに生きているからであり、誰でも心の奥底ではそれを自覚しています。私たちは、自分自身に問いかけ、その答えに「耳を傾ける」だけで、良心を働かせることができます。たとえば、私生活で何を始めれば、人生に最も大きな影響をもたらすことができるか、自分に問いかけてみてください。よく考えてください。思いつきましたか。
では次に、何をすれば仕事に最も大きな影響をもたらすことができるか、自問してみましょう。先ほどと同じように、じっくりと考え、心の奥底で答えを見つけましょう。あなたが私と同じような人であれば、あなたの内面にある知恵、自覚、常識の声であるあなたの良心に耳を傾けることで、これらの最も重要なことに気づくはずです。
次の質問は重要です。人生があなたに求めているものは何でしょうか。じっくりと、慎重に考えましょう。今まで目的もなく過ごしてきた、これからは時間の使い方にもっともっと気を配る必要があるな、そう思ったかもしれません。あるいは、いつも疲れているから、食生活を改善し、運動を始める必要があると考えるかもしれません。
修復すべき重要な人間関係があることに気づくかもしれませんね。答えが何であれ、自分の良心に従えば、力強く変わっていくことができるのです。目標に向かって努力するプロセスで壁にぶつかったとき、信念がなければ乗り越えることはできません。そして信念というのは良心から生まれるのです。
私たち人間には、公的生活、私的生活、内的生活の3つの異なる生活があります。公的生活は、他の人たちの目に見える生活です。私的生活は、ひとりのときの生活。そして内的生活は、自分の真意、内なる願いを心の底から知りたいと思ったときに行く場所です。私は、この内的生活を発展させることを強く勧めます。私たちの内面は、良心に耳を傾けるのに最もふさわしい心構えができ、良心の声に従うことができる場所なのです。
変わるためにもう1つ重要なことは、役割を変えることです。いつも言っていることですが、人生を少し変えたいくらいなら、行動を変えれば十分かもしれません。しかし、大きな変化を望むのであれば、世界の見方、解釈の仕方であるパラダイムに取り組む必要があります。そして、パラダイムを変える最善の方法が、役割を変えることです。仕事で新規プロジェクトのマネージャーに昇進するかもしれません。お母さん、おじいさんになるかもしれません。社会で新たな責任を担うことになるかもしれません。役割が突然に変わると、世界の見方も変わり、見方が変われば、行動もおのずと良くなるものです。
役割の変化は、職場での異動など外的な要因でなされることもありますが、考え方や状況に対する認識を変えるだけで、役割を変えることはできるのです。たとえば、職場で支配欲が強いと思われている人が、他者を信頼して仕事を任せられるようにならなければならないと自覚したとします。この場合は、自分に対する見方を変え、「監督者」から「助言者」に役割を変えることができるでしょう。このような役割の変化、気持ちの変化によって、何もかも背負い込む人ではなく、チームのメンバーが決断を下した後に助言を求められる存在として自分を見ることができるようになります。
「7つの習慣」の中でどれが最も重要かという質問をよく受けますが、私の答えはこうです。最も重要な習慣は、最もつらいときに身につける習慣です。生まれ持った自覚と良心に従えば、どの習慣に最も力を注ぐべきかわかるかもしれません。多くの場合、変わるための最善の方法は、ひとつのこと、ひとつの習慣を選び、その習慣に関連する小さな取り組みを継続することです。そうすれば、自制心と自信が少しずつ強くなっていくことでしょう。
意味のある変化はすべて内側から生まれるものであり、すべては人から始まります。個人として変化していく過程であなたの影響が広まっていき、あなたの誠実さに他の人たちの心も動かされます。こうしてあなたを取り巻く環境が徐々に変わっていくことに気づくでしょう。自分を変える取り組みが軌道に乗って初めて、組織を変えることに取り組めるのです。私が重視しているのは、「7つの習慣」を組織の文化に組み込み、上から下に命令する産業時代の考え方から脱却することです。
人々の内面には今でも産業時代のマインドセットが残っています。一人ひとりが唯一無二の才能を持ち、他の人にはできない貢献をすることができると知りながら、人を管理できるものとして扱い、交換可能なもの、全員同じとみなしています。財務諸表では、人は最も活用価値の高い資産ではなく、経費として扱われます。たとえあなたが慈愛に満ちたワンマン経営者であっても、支配していることに変わりありません。これが、現在のほとんどの組織にみられる最大欠陥です。
「7つの習慣」は、このような状況を変えることができます。「7つの習慣」が浸透した組織文化は、そこにいるすべての人に力を与えます。この文化では、全員が極めて大きな価値を持ちます。合唱では、テナーやソプラノのパートがアルトのパートの代わりをすることはできません。
それと同じように、「7つの習慣」の文化では、メンバーが互いに補い合い、全員の生産力を活用し、一人ひとりの弱点を意味のないものにするチームが慎重に編成されます。全員が必要とされるのです。重要なのは人々を解き放ち、誰もが自分の意見を言い、自分がやりたいこと、やるべきことをきちんとできるようにすることです。
「7つの習慣」によって変化を遂げた世界各地のチームや組織の事例を知るにつけ、とても謙虚な気持ちになります。たとえば、「7つの習慣」はメキシコの大手鉱業会社の社訓になっています。CEOから炭鉱夫まで、全員が「7つの習慣」セミナーを受けています。全員にかけがえのない価値があります。全員が結果に責任を持つことで、生産性が飛躍的に上がり、それと同時に事故率が激減しました。「夫に何をしたのですか。別人のように変わりました!」と会社に電話をかけてくる奥さんもいるほどです。
今では家族全員がセミナーに参加しています。いくらすばらしい人材が揃っていても、すばらしい会社になれるわけではありません。組織もまた、「7つの習慣」を実践しなければなりません。つまり、率先して行動し、使命と戦略を明確にし、常に優先順位に従って行動し、すべての関係者とのWin-Winを考え、相乗効果的に未来のための革新を起こすということです。組織が成功するには、「7つの習慣」の枠組みの中で考えることが重要です。「7つの習慣」の文化を構築するのはCEOだけの仕事ではなく、全員の仕事です。この文化では、全員がリーダーなのです。
私はこれまで、世界中の組織の文化に原則中心のリーダーシップを組み込むことに情熱を注いできました。このようなリーダーシップは、CEOだけでなく全員のためになります。真のリーダーシップは、形式的な権威ではなく、道徳的な権威に基づくものです。ガンジーは生涯、公職に就くことはありませんでした。スー・チーとネルソン・マンデラは、良心に従ったために長年拘禁され、その経験のなかで道徳的な権威を獲得しました。私は一教師として生きてきました。高い責任を持つ地位に就いたことはありませんが、自らの使命を果たす大きな責任を感じています。「7つの習慣」を真剣に受け止める人は誰でも、リーダーになれます。
個人的には、私の家族の幸せと彼らが歩む人生の質の中に私の最大の遺産があることを願っています。家族ほど、私を幸せにし、満足させてくれたものはありません。私にとって最も大切なのは、家族です。ある賢明な指導者は「どんな成功も、家庭での失敗を補うことはできない」と言っています。私もまったく同感です。
実際、自分の家庭の中でする仕事は、あなたがこれから行う仕事の中で最もすばらしい仕事なのです。家族は何よりも大切なものであり、私たちがこれまで費やしてきたよりも多くの時間を費やし、気を配るべきものです。人は、仕事の戦略には何百時間もかけて事細かく考えるのに、家族の絆を強くするにはどうするか考えるとなると、ほんの少しの時間もかけようとはしません。
家庭と仕事は両立できない、というのは嘘なのです。どちらかしか選べないものではありません。よく考えて計画を立てれば、両立できます。それどころか、一方がうまくいけば、もう一方もうまくいきます。同様に、これまで家族をないがしろにしてきたとしても、家族とやり直すのに遅すぎることは絶対にありません。
仕事について、自分が何で有名になりたいかと訊かれれば、私の答えは簡単です。子どもたちへの働きかけです。すべての子どもはリーダーであり、そのように見られるべきだと考えています。子どもの振る舞いでその子を判断してはなりません。リーダーとして見るべきであり、リーダーとして認めるべきです。リーダーシップとは、他者の人間としての価値と可能性を認め、それをその人自身の目ではっきりと見えるようにすることです。
子どもたちに生まれ持った価値と美徳を教え、自分のなかにある大きな力と可能性を自覚できるように手助けすることで、次世代のリーダーを育てることができます。現在、世界中の何千もの学校が「7つの習慣」を取り入れ、自分が本当はどのような人間で、何ができるのかを子どもたちに教えているのは、喜ばしいことです。
私たちは子どもたちに、誠実さ、問題解決能力、自制心、Win-Winの生き方を教えています。自分と違う人に不信感を抱くのではなく、歓迎するよう教えています。「刃を研ぐ」方法、成長をやめず、向上、学習し続けることを教えています。この教育は、世界中の何千もの学校で実施されている『The Leader in Me』プログラムを通じて行われており、人気のある生徒だけがリーダーになるのではなく、全員がリーダーであることを学びます。
優れた人格によって得られる第一の成功と才能に対する社会的評価である第二の成功の違いを学び、第一の成功を重んじることを学びます。選択の自由というすばらしい贈り物を持っていること、うちひしがれた被害者や機械の歯車になる必要はないことを学びます。子どもたちがこれらの原則と強く結びついて成長し、他者への義務を真剣に考える責任ある市民となり、被害者意識や依存心、猜疑心を持たず、保身に走ることもない、そんな未来を想像してみてください。そのような未来は実現可能です。私は、その未来を実現した人として記憶されたいと思っています。
私は自分の本職を教師だと思っています。正式な教育を受けた後、教授になりました。その仕事は大好きでした。私自身の使命を模索し始めたとき、「7つの習慣」をはじめとする本に書いた通り、原則中心のリーダーシップという思想は私自身が思っていたよりもずっと大きいことを実感しました。このメッセージをまとめ、広く伝えるための組織を作らなければ、私の死後、その重要性と意義が失われてしまうかもしれないと思ったのです。
そこで会社を興し、原則中心のリーダーシップを世界中に広める仕事に乗り出しました。コヴィー・リーダーシップ・センターとして始まった会社は、後にフランクリン・クエストと合併し、フランクリン・コヴィーとなりました。当社の使命は、原則中心のリーダーシップの実践を通じて、世界中の人々、組織、社会のすばらしさを引き出すことです。
当社は現在、世界140カ国以上で事業を展開しています。私は、この組織のミッション、ビジョン、価値観、業績を誇りに思っています。まさに私が望んでいた通りのことを行っています。何より、フランクリン・コヴィーは、私にも、他の何にも依存しておらず、私の死後もずっとこの仕事を続けていくことでしょう。
自分にとって最も重要な仕事は常にまだ先にあるということです。後ろにあるのではありません。自分にとって重要なことへの取り組みを常に拡大し、深めていくべきです。引退は間違った考え方です。仕事から引退したからといって、有意義な活動や貢献までやめてしまってはいけません。
「クレシェンド」とは音楽用語で、次第に音量を上げていき力強く演奏することを意味しています。反対語は「ディミヌエンド」で、これは「次第に弱くする」こと。後ろに下がり、安全策を取り、受け身になって人生を終えていくことです。ですから、クレシェンドの人生を生きなければならないのです。この考え方を意識して生きなければなりません。あなたがこれまでに何を成し遂げていても、あるいはまだ成し遂げていなくても、なすべき重要な貢献はあるはずです。バックミラーを見るように過去を振り返りたい誘惑に打ち克って、希望をもって前を見なければなりません。今、娘のシンシアと『クレッシェンドの人生』という本を書いているのですが、とても楽しいですよ。
年齢や地位に関係なく、「7つの習慣」に従って生きれば、貢献が終わることは決してありません。もっと興味を掻き立てるチャレンジ、より深い理解、もっと激しいロマンス、より意味のある愛など、常に上を追い求め続けます。過去に成し遂げたことに満足していても、次の大きな貢献は常に見えてくる。
築くべき人間関係があり、奉仕すべき社会があります。家族の絆を強くする必要があるかもしれないし、解決しなければならない問題が発生するかもしれません。得るべき知識もあるだろうし、傑作ができるのはこれからかもしれません。最高の仕事は常にまだ先にあるのです。以前、私の娘の一人が、「7つの習慣」を書いたら、世界に影響を与える仕事は終わるのかと訊いてきたことがあります。私の答えに娘はとても驚いたようです。「自分を買いかぶるつもりはないが、最高の仕事はこれからだと心の底から信じている」と私は答えたのです。
スティーブン・R・コヴィーは、約10冊の著作に全面的に関わっていたなか、2012年7月16日、79歳でこの世を去りました。彼は一般的な意味で引退することなく、「クレシェンド」で人生を終えました。その思想の影響は、ますます速度を上げて世界中に広まり続け、世界中の学校に通う子どもたち、経営幹部、普通の人々の人生を変えており、私たちは彼とともに、自分の最高の仕事はこれからだ、という言葉を信じています。