週刊「7つの週刊」日本元気化計画 元気には原則があった!
竹村富士徳の「7つの習慣」実践マガジン|リーダーシップや戦略実行、タイム・マネジメントの講師として活躍する竹村富士徳が、「7つの習慣」を実践するにはどうしたらいいのか、そのポイントを連載でお届けします。

第7回:リーダーシップとマネジメントについて考える

竹村富士徳
フランクリン・コヴィー・ジャパン取締役副社長として経営に携わりながら、コンサルタントやファシリテーターとしても活躍。リーダーシップや戦略実行、タイム・マネジメントなど、幅広いジャンルで、コンテンツのコンセプト作りから開発まで深く関わる。雑誌などのメディアへの登場も多数。

●リーダーシップとマネジメント

 『7つの習慣』の中ではかなりのページを割いて、リーダーシップとマネジメントについて書かれていますが、リーダーシップという言葉は日本では馴染みが少ないように思います。アメリカでは、ドラッカー、コッター、ジム・コリンズ始め、多くの方がリーダーシップの定義をされており、リーダーシップの権威であるコヴィー博士もリーダーシップについて大いに語っています。

 リーダーシップはマネジメントより少しわかりづらいかも知れませんが、コヴィー博士は、リーダーシップを定義することで、一人ひとりの個人やリーダーが効果的にリーダーシップを発揮できるようにするために、『7つの習慣』を提唱したのです。まずこのコヴィー博士が、リーダーシップとマネジメントの違いを、どんな風に定義しているかご紹介します。

 ざっくりと言いますと、リーダーシップとはどちらの方向に向かって進むのかという方向性を指し示すことであり、マネジメントはその指し示された方向に向かって、能率・効率よく、管理・コントロールしていくことだと定義されています。またコヴィー博士は、個人のリーダーシップに関して、「多くの人たちは、梯子に登り始めて、それが掛け違いだったことに気づく。つまり、どこに梯子をかけるのかというのが私たちの中のリーダーシップであり、その梯子を能率・効率よく登っていくのがマネジメントの役割である」と説明されています。

 大切なポイントは二つあります。私たちはリーダーシップとマネジメントを、同じようなニュアンスで使ってしまいがちですが、今説明した通り、リーダーシップとマネジメントは役割が全く違うということが一点。それからもう一つ、まずリーダーシップありきでなければ、マネジメントは機能しないか意味がないということです。

 これは第1回でご紹介したように、コンパスと時計にたとえることができます。リーダーシップはコンパスを表し、マネジメントは時計です。

 日本の組織の中は、リーダーシップを発揮する人がリーダー、マネジメントを行う人がマネージャーというように、単なる役職と誤解されていることも多いようです。むしろ、マネージャーの方が上位役職でその下にリーダーという役職がいるという会社もあるので誤解されるのかもしれません。しかし、実際はリーダーが組織の進むべき道を決め、マネージャーはその道に従って進んでいということなのです。

 ただ、個人のリーダーシップについては補足が必要です。ある時ある会社にお邪魔したときに、このリーダーシップとマネジメントの前に、セルフをつけました。セルフ・リーダーシップとセルフ・マネジメントです。今でも覚えていますが(会社のかなり上の方だったのですが)、セルフ・リーダーシップの概念が分からないとおっしゃったのです。

 つまり、自分自身で自らの方向性を定めていくという考え方、価値観がなかなか理解しにくいようでした。やはり与えられたものを、請け負ったものを、どれだけ能率・効率よくやっていくのかという考え方の文化やパラダイムが非常に強いようです。もしかしたら右肩上がりの高度経済成長時代、いわゆる工業産業時代は、組織や個人レベルにおいても、マネジメント職(与えられたものをいかに能率・効率よくやっていくか)という感覚の方が非常に強かったのかもしれません。

 ですから、当時「リーダーシップとマネジメントの違いは何でしょうか」と尋ねると、笑い話のようですが、今お話しされたような「リーダーシップはリーダーで、マネジメントはマネージャー」と答える方がおられました。そういう考え方ではなくて、組織や個人レベルでも、向かうべき方向を指し示し、能率・効率よく実行することが必要なのです。

 役職に関わらず、そのようなリーダーシップを発揮している方が真のリーダーであり、そして示された方向に向かって能率・効率よく事を成し遂げるマネジメントもリーダーなのです。つまり、この両方がなければ、個人も組織も、然るべき方向に向かって然るべき速度では進むことはできません。そういったところが根本的な原則になると思います。

●リーダーシップとマネジメントは機能

 コヴィー博士が好んでよく使っていた言葉で中の一つに“Leadership is not your position, but your choice”があります。それは、まさに「リーダーシップというのは役割につくものではなくて、あなたの選択にかかっている」という意味です。したがって、自ら手を上げてリーダーですというように、自分自身で方向性を指し示す必要があります。

 一方、マネジメントのやり過ぎというのは、たいていの場合、組織のリーダーの方々は、上から落ちてきたものをどのようにして能率・効率よく割り当てていくのかというニュアンスで捉えることからくると思います。例えば、自らビジョンを示したりビジョンを策定するよりも、与えられた目標をいかに振り分けながらやっていくことの方が多いと感じています。

 個人がリーダーシップを発揮するということを『7つの習慣』から紹介すれば、それは「第2の習慣 終わりを思い描くことから始める」に深く結びついています。その中にあるように、自分自身のミッション・ステートメントを作ることは自分の中のコンパスを持つことであり、それは自分自身の進むべき方向性を指し示すことです。それが、リーダーシップを発揮することに強く繋がります。

 よく研修の中で、「時計を持っていらっしゃる方いらっしゃいますか」とお尋ねすると、ほとんどの方が「時計を持っている」と手を上げます(携帯電話なのかもしれませんが)。一方、「コンパスを持っておられますか」とお尋ねすると、ほとんどの場合は手が上がりません。つまり、自分がどちらの方向に向かって進むのか、自らの方向性を指し示すものを持つということが、個人がリーダーシップを発揮するために必要だということです。

 セルフ・リーダーシップとは、自分の人生や仕事の進むべき道を定めるということでなのす。会社では、戦略的な事柄とルーティーンで行う業務があります。私たちの毎日の生活でもそうですが、いわゆる意図的、意識的にやっていく事柄と、無意識のうちに習慣化している事柄があります。このような分け方で考えたとき、ルーティーンの世界に入っている事柄は、マネジメント色が強いという気がします。一方、自分が行きたい方向に向かって計画をしたり、戦略的に取り組むところは、個人のリーダーシップに繋がっていくところだと思います。

●第II領域を実行するリーダーシップ

 先行きが不透明な時代だと言われている中にあって、私たちが自分のコンパスを、ビジネス・パーソンとしても個人としてもしっかり持たなければなりません。それを意識しながら、そこに戦略的に自分がどのように日々取り組むかを、より意図的に意識的にやらない限り、自分の中のリーダーシップを発揮することが難しい世の中になっていると思います。それを意識せずに、悪い言い方をすると周りに流されてしまうと、やはり能率・効率の世界に入ってしまいかねません。

 若いビジネス・パーソンの方々で、上司が何人もいると、上から目標や役割が降ってきます。そうした中で、日々マネジメント業務に携わる難しい状況はよくわかります。そうした場合、「何をするかではなくて何をしないか」を選択することが大切だと、よく言われるようになりました。まさにそれが当てはまります。ドラッカーも言っていますが、「かつての時代に比べたら、個人にしても組織にしてみてもほんとに選択肢が多い」時代だと思います。

 そうした中で何から着手するかを判断するのが私たちの中のコンパスですが、組織の中にあっては与えられているものが多くてコンパスを見つけるのが難しい。“do more with less”というように、「より少ない資源でもっと多くのことをやりなさい」と言われる中では、そんな選択肢すら自分自身で見いだしていくのが難しい状況かもしれません。

 しかし、『7つの習慣』的に申し上げるのであれば、第3の習慣にある「時間管理のマトリックス」では「最優先事項を優先する」ことであり、特にリーダーシップでは第Ⅰ領域あるいは第Ⅱ領域を実行せよということになります。第Ⅰ領域はどんどんと降ってきますので、そのような嵐を避けて、いかに自分自身のリーダーシップ力を発揮するかが大切です。長期的にはミッション・ステートメントということになりますが、もっと短期的な日々の生活の中にあっては、第Ⅱ領域にいかに取り組めるかが問題になります。そこに自分自身の時間の使い方も含めて、リーダーシップを発揮することが、大きなカギになってきます。

●セルフ・リーダーシップから人間関係リーダーシップへ

 大きなイエスというのはミッション・ステートメントや、自分のキャリアの中の大きな目標というようことを自分で考える、そこからスタートしていくことになります。特に大きなイエスを与えてくれるものが、先ほどご紹介したようなミッション・ステートメントです。自分自身のコンパスがそのように語るので、「私はこれを選択する」というのがリーダーシップであり、同時にだから「これを選択しない」ことを自分自身で選ぶこと、また、周りに対してもそれを「きちんと伝える」ことも、リーダーシップです。

 具体的には「時間管理のマトリックス」の中で、主に第Ⅲ領域の扱いに関わってきます。つまり、緊急だが重要ではない事柄です。これは自分自身のコンパスにとっては重要ではないけれど、もしかしたら他の人にとって重要な事柄なので、残念ながらゼロにすることはできません。これに対して、いかに自分の中の「大きなイエスを持ってノーと言う」ことをしなければ、なかなか自分自身の時間のコントロールのレベルが上がりません。

 自分自身のミッション・ステートメントを定め、第Ⅱ領域のことを実行することが必要です。第3の習慣までのところで自立ということになりますが、そこから第4、5、6の習慣を通して公的成功に入っていく訳です。この公的成功の第4、5、6の習慣が、ワンランク高い人間関係のリーダーシップです。いわゆる自立する段階で、自分自身の目的、コンパスが、長期的な部分ではっきりしていきます。人間関係におけるリーダーシップを発揮することで公的成功を成し遂げていくときに、自分自身のコンパスだけではなくて、他の人たちが大切にしていることやコンパスを見ていく必要があります。

 ですから第4の習慣のWin-Winにおいて、自分のWinは自分のコンパスが伝えていることになります。相手のWinも、相手のコンパスや大切な事柄を基準に相手が望む結果があるわけです。それを理解する必要があり、そのために第5の習慣があります。そして、自分の進みたい方向と、相手が向かいたい方向を合わせて、自分の案でも相手の案でもない第3の案を選択するのが、第6の習慣ということになります。自立以上の、自分のコンパスだけではない、より高い別次元の結果を見いだすのが、第4、5、6の習慣ということになります。

●個の時代のリーダーシップ

 今、日本の会社で終身雇用に戻ったりしていますが、はっきりしているのは個の時代だということです。個の時代なので、ある程度の管理職の年齢の方々が、自分がかつてリーダーシップを発揮していたかのように、マネジメントしていたかのように、メンバーに指導してもなかなか通用しません。それは、会社や組織に対するロイヤリティがかなり落ちているため、言われたことをそのままやるということにならないからです。

 そうすると、これは『第8の習慣』の中でコヴィー博士も提唱していますが、個々人の中にある全人格、個々人の中にあるすべての側面をきちんと見なければなりません。彼らが向かいたい方向、ニーズは何なのか、そしてリーダーとして持っているものは何か、組織として持っているものは何かなど、いろいろなコンパスをきちんとコミュニケーションを取りながら共有し、それぞれの方々の中の動機付けをきちんとしていく必要があります。

 従来であれば、上からやれと言われたら、それで通用したリーダーシップだったのかもしれませんが、今は通用しません。いろいろな方々のニーズ、コンパス、方向性を合わせてよりよいものにしていくのが、現在のリーダー達に求められている必須のパラダイムであり、またスキルではないかと考えています。

 自分がコンパスを見いだし、そのコンパスに従って生きるということを、相手の人ができるようにしてあげるということです。それが、第8の習慣です。相手の方がコンパス、『第8の習慣』の中ではボイスと言っていますが、それを見いだして、そして奮起して、それに向かって進むことができるように、一人ひとりがリーダーシップを発揮できるように、リーダーシップを発揮するというのが、コヴィー博士が一番伝えたい、リーダーシップのあるべき姿だと思います。

 組織の中では難しいかもしれませんが、一人ひとりのリーダーシップが集まって、初めて、組織としての大きなリーダーシップが発揮されることになります。これはコヴィー博士のリーダーシップだけではありません。例えば『ビジョナリーカンパニー』のジム・コリンズが提唱しているように、偉大な結果、グレイトな結果を出しているグレイト・カンパニーに共通する事柄でもあります。

 それは期待されている市場のニーズに対して自分たちのコンピタンスがある、そしてもう一つの要素として、そこに関わる方々の情熱です。この情熱というのは、ただ単に自分がこれをやりたいというだけではなくて、自分たちの中のコンパスだったり、貢献であったり、意義であったりとか、いわゆる自分自身の方向性です。それが明確になり、それが共有されていて、個々の中にきちんと根ざしているようなチームの文化や雰囲気、そしてそれに基づく人間関係や信頼関係、尊敬のような思いがあって初めて、チームが本当に強くなっていくと思うのです。

 『第8の習慣』の中にある、すべての側面から人を見ていくことを「全人格型パラダイム」とコヴィー博士は言っています。全人格型パラダイムとは、肉体−経済的な面、そして知性−個人的な成長の面、情緒−人間関係や愛し愛される側面、それからあとは精神−貢献から成っています。

 貢献が最もコアであるとコヴィー博士は述べますが、肉体、知性、情緒、精神という4つの側面、4つの中にあるニーズは一人ひとりが必ず持っており、私たちが活動する中で、どんな貢献、いわゆる精神的な充足感、満足感を得ることができるのかが大切になります。

 リーダー達は各メンバーのそれらを引き出し、それを組織の方向性に結びつけることがカギになっていくわけです。かつての工業産業時代のように、「やれ」と言ったり、「リーダーシップを発揮しろ」と言うだけでは、難しい状況です。そんなところをサポートすることも、リーダーシップであり、またリーダー達の大切な要件になっているのではないでしょうか。(談)