週刊「7つの週刊」日本元気化計画 元気には原則があった!
竹村富士徳の「7つの習慣」実践マガジン|リーダーシップや戦略実行、タイム・マネジメントの講師として活躍する竹村富士徳が、「7つの習慣」を実践するにはどうしたらいいのか、そのポイントを連載でお届けします。

第6回:ミッション・ステートメントを考える

竹村富士徳
フランクリン・コヴィー・ジャパン取締役副社長として経営に携わりながら、コンサルタントやファシリテーターとしても活躍。リーダーシップや戦略実行、タイム・マネジメントなど、幅広いジャンルで、コンテンツのコンセプト作りから開発まで深く関わる。雑誌などのメディアへの登場も多数。

●4つの側面と4つのインテリジェンス

 『第8の習慣』の中で、コヴィー博士は「第7の習慣 刃を研ぐ」の中にある「肉体、知性、社会・情緒、精神」を、別な切り口でより深みがある内容で紹介しています。第7の習慣では「肉体、知性、社会・情緒、精神」は並列な4つの側面として表現されていますが、『第8の習慣』の中では精神を中心にしながら、知性、それから肉体、情緒にまとめており、それを4つのインテリジェンスとしています。

 この4つの側面、4つのインテリジェンスを高めていくことを通して、自分自身の効果性をより高めていきます。『第8の習慣』ではそれを「偉大さ」と言っていますが、この4つを高めることを通して、知性がビジョンになり、肉体が自制心になり、情緒が情熱になって、そして真ん中の精神が貢献に向かいます。

 世の中で本当に偉大な業績、功績を残された方々は、この4つの側面について、精神を中心にしながら、より高いレベルに自分自身のビジョン、自制心、それから情熱を拡大しています。実はこの精神こそが、私たちの一番中心にあるものであり、良心と結びついています。私たちがどこに向かって行くのか、自分たちの精神的な充足感であり、良心が促すものであり、また私たちが他の人たちに対して、社会に対して貢献をしていくのかを捉えていくのが、第2の習慣にある「ミッション・ステートメント」を設定することにつながっていると思うのです。

 『7つの習慣』に「すべてのものは二度つくられる」があります。これは本当にインパクトのある言葉で、『7つの習慣』にしかない言葉だと思いますし、コヴィー博士の最も言いたかったことの一つではないかと想像しています。

 これについて大学生に教えるときは、「あなたは一週間旅行に行くことになりました。一体何を持って行くでしょうか」と尋ねることがあります。そうすると、今どきの若者らしく、まず携帯電話から始まり、お金、それから着るもの……、いろいろなものが挙げられます。その後、少し視点を変えて「行き先は南極大陸です。さあ一体何を持って行くのでしょうか。先程のもので大丈夫でしょうか」と聞くと、持っていく中身は一気に変わります。これは非常に簡単な例え話ですが、私たちはどこに向かうかによって準備するものがまったく変わってきます。

 私たちが目にするすべてのモノには、何らかの設計図があります。第一の創造は、別名「知的創造」と言われます。まずは設計図のような形で知的創造がなされた上で、それから実際には物理的なモノが作れられます。ここで、コヴィー博士が主張したいのは、人生も同じように捉えていくべきではないだろうかということです。

 朝に目覚まし時計が鳴り、私たちがそれを止めた段階で第二の創造がすぐ始まります。ですから、一日が始まる前に第一の創造をしていなければ、設計図が無い状態でモノを作ることになってしましいます。第一の創造があれば、何を持って一日を過ごし人生を築いていくのかという事柄がより明確になり、何をしたらいいのかという事柄もより的確なものになります。したがって、まず、第一の創造があった上での第二の創造ということを押さえる必要があるのです。第一の創造をまずきちんと考えていきましょうとご紹介しているのが、第2の習慣です。

●人生の第一の創造

 人生の第一の創造は、いわゆる人生における目標やビジョンという言葉で表現できると思います。『7つの習慣』ではもうお馴染みかもしれませんが、自分自身のミッション(ミッションというのは日本語では使命)、つまり自分の命の使いどころということになるでしょう。それをミッション・ステートメントという形で定着します。それが自分なりの第一の創造であり、自分が進むべきコンパスということになります。

 こういう考え方は、日本人にとって少し馴染みにくいものです。ミッションを持っていますかと聞くと、ほとんどの人は持ってないと答えると思いますが、ミッションと目標というのは具体的にどう違うのでしょうか。

 私たちが企業でコンサルティングを行うときでも、ミッションとビジョンの違いは何でしょうかと質問されます。第2の習慣の中で言っている、コヴィー博士のミッションは最も広い意味合いで捉えていると思います。『第8の習慣』を見る限り、コヴィー博士はミッションという言葉で伝えたいことは、私たちの中にあるボイスと考えることができます。

 私たちが必要とされていて、私たちにその能力があり、私たちの情熱があって、またそこに私たちの良心が訴えかける、独自の貢献って一体何なのかを考えることです。コヴィー博士が突き詰めていくミッションとは、『第8の習慣』にあるボイスだと思っています。

 一方、『7の習慣』におけるミッションは、もっと広い意味でのビジョンや目標、自分自身の憲法という言い方をしています。つまり、将来こんな風になりたいとか、こうありたいなと思うようなことまで含めて、広くミッションと捉えています。まだコンパスを持っていない、捉えどころがないと思う方は、ミッションの定義を考えるより、まず自分がどの方向に向かって進み、どのようになりたいのかを考えることが先決です。

 それを定期的に見直すことを通して、自分のミッションが何なのか見えてくると思います。コヴィー博士はそれを「探していく」、つまり探し求める旅だと言っておられます。まずはこの広いところから始めながら推敲を重ねて、『第8の習慣』にあるような、本質的な自分のミッションを掴んでいただければと思います。

●ミッションへのアプローチ

 個人の価値観、ビジョンや目標であったり、あるいは日頃から大切にしたいことをまず、文章としてまとめ、それを携帯して日々見直すことから始めます。ただ、今年はこんなことをやっていきたいということでもいいのですが、単に自分の情熱という側面だけであれば、悪い言い方をすると利己的なものが多かったり、短絡的なものになりがちです。

 その結果、長続きしないことも多いようです。そこで、一点だけ『7つの習慣』『第8の習慣』の原則に従ってアドバイスすれば、本当に自分自身の良心が訴えることができるものをやりなさいということです。それが、コヴィー博士の言うミッションに少しでも近づいていくことだと思います。

 研修でもよく見受けますが、ミッションとしてただ単に自分のやりたいこと、例えば世界一周したい、金持ちになりたい、フェラーリに乗りたいということなどを挙げる方おられます。それらが、良心が訴えている事柄ならいいのですが、もしそうでないのであれば、自分自身ときちんと向き合い、本当に自分が大切にしたいこと、成し遂げたいこと、なりたい自分とは何かなどを見いだしていただけたらいいと思います。先ほどの第7の習慣の精神的側面を自分自身の中で見つめ直し、それから鍛えていくという部分に重なり、そしてクオリティアップしていくような感じです。

●小学生のミッション・ステートメント

 千葉県の小学生の授業を見学した際、先生が子供たちにミッション・ステートメントを教えているシーンが印象的でした。最初、生徒達は「それ先生ずるいですよ、先に言ってください、わかんないですから」、先生は「ごめんごめん」と言う具合に進んでいきます。先生が「でも毎日の、日々の生活の中で、まさか君たちはこんなことしてないよね」と質問したら、子供たちは「そんなことするわけないですよ」と、「ちゃんと朝起きたら、今日は何の授業があって、何の宿題があるからこれを持って行く。ちゃんと目的決めて行っていますよ」と答えます。

「じゃあ、再来年君たちが小学校卒業するときに、どんな6年生になって卒業したいか言ってごらん」と聞いたとき、誰も何も答えられませんでした。「それが君たちのミッションということだよ」と先生は答えられていました。

 そう言われてみると、私たちも「10年後、あなたはビジネスマンとしてどうなっていたい?」と聞かれたときに、なかなか誰も答えられないのが現状ではないかと思います。その授業を見たときに、そういうように思った訳です。そういう考え方も、ミッションを考えるアプローチとしては有効です。

 私も、研修の中で手を叩いて「皆さんお付き合いください、今この部屋だけ10年前になりました。10年前の今日のこの日です。お隣の方と初めて会って、今から1分ずつで自己紹介してください」と言うと結構盛り上がります。その後、「皆さん準備終わりました。本番に参りましょう」と言うとキョトンとされますので、もう一回手を叩いて「皆さんもう一度、現実的でない話ですがお付き合いください」と話します。

「今から10年後、2014年であれば2024年のこの日でございます。久しぶりにお相手の方にお会いになられたときに、またまた1分ずつでの自己紹介をお願いします。どうぞ!」となると、まあこれは盛り上がります。でも、後で様子を伺うと、一番手の方は考えながらしゃべりながら、こんなこと言っていいのかしらといった感じでお話になられます。そして二番手の方はですね、いつも笑い話になりますが、一番手の話しを聞いているふりをしながら(笑)、次自分が何を話そうかと考えています。

 そこで、またお尋ねします。「仮に、またあり得ない話ですが、10年前に私が皆さんにお会いする機会があったとして、全く同じ演習をしたとしたらどうでしょうか。つまり10年前の皆さんが10年後の自分、つまり今日のリアルな自分と重ね合わせたときに、皆さんどんな風にお感じになりますか」とお聞きすると、みなさんかなりいろいろな思いが浮かぶようです。私たちは、どこに向かって進んでいくのか、将来何を大切にして、どんな風になっていきたいのかについて、結構考えていないことに気づかれるようです。

 英語で第2の習慣のことを、“Begin with the End in Mind”と言います。日本語に訳すと「終わりを思い描いてから始める」となります。私たちの今のEndが見えるところはどこでしょうかというのが、第2の習慣で一番お伝えをしたいところです。

 それは仕事や生活であったり、いろいろな面があり、それぞれに目標を作られておられると思います。また、『7つの習慣』にもありますが、自分の葬式の際どういう弔辞を読まれたいかというような、一人の人間として考えていくことが重要です。

 ミッション・ステートメントは非常に個人的なものですので、まず自分自身がどうかという事柄について考えます。Endを人生のEndと考えるのであれば、自分の葬儀、弔辞を誰にどのように読んでほしいのかというところからイメージできます。まずは自分自身の中に、そんなミッション・ステートメント、コンパスをお持ちになることをお勧めします。ただ、個人だけではなくて、家族、チームや会社であったとしても、全く同じプロセス、概念で、ミッションや最も大切にしなければならないこと、自分たちの命の使いどころとは何なのか共有することは非常にパワフルなプロセスになり、また効果ではないか考えています。

●チームでミッション・ステートメントを考える

 今は激流の時代であり、ビジネス・パーソンは上から与えられてくる指示、激流のようなマーケットやお客さんから要望されることを、非常に短期的かつ近視眼的に処理をするのに精一杯です。その中で自分たちが「一体何のために、何をどのようにする」ということはわかっているのですが、「なぜそれをやっているのか」という点を見失いがちです。でもこんな時代だからこそ、同じ方向に向かってなぜやっているのかということを、一人ひとりきちんと動機付けしていくことが、リーダーシップを発揮するポイントだと思います。

 それをするための具体的な考え方、もしかしたらツールと言ってもいいかもしれませんが、ミッションを作っていくというプロセスが大切になります。この近視眼的な中にあって、一人ひとりが自分たちのやっている事業の価値に関しての方向性や貢献を確認していくことは、チームや組織の効果性を高めて一人ひとりの力を解放するのに非常に有効だと感じています。

 例えばクレドや会社の経営方針、価値観です。いわゆる創業者の志は、経営理念、価値観やクレドに反映されています。ところが組織が大きくなり、ミッション策定のプロセスに関わっていない人が多くなると、それらは一般的には美辞麗句のようになってしまい、いわゆる壁に飾られた絵のような状態になってしまっているのが、よくあるパターンではないかと思います。

 そこでコヴィー博士がお勧めしているのが、“No Involvement, No Commitment”、つまり参加なければ決意なしです。実際に出来上がっている組織のミッションに関しても、それが自分たちにとってどんな意味や意義があり、そこに対して自分たちが何を見いだすことができるのかを考え、共有し意見を交わしていくということも、非常に有効だと思います。

●ミッション・ステートメントを作るプロセスが大切

 ミッションが出来上がったとき、そのミッションがよくできているかできていないのかというのという評価が必要になります。たとえば、研修の中では、一応チェックリストのようなものを提供させていただいていています。特に強調したいのは、参加されておられる方々が、ミッションを読まれたときに、どれだけコミットメントできるか、動機付けできるか、あるいはわくわく感が得られるのかという点です。また、非常にシンプルで覚え易いのかとかという点もあります。あともう一点、あえて挙げるとしたら、どれだけ独自性があるのかという点も、チェックリストになります。

 ただ、これは経験上申し上げさせていただくと、実際に何回かのセッションを通して最終的にアウトプットされたミッションは、ものすごくシンプルなものが多いということです。巡り巡った上で、かなり時間をかけて、議論を重ねた上で、やっぱりこれかというようなものが非常に多いのです。例えば、今まで漠然と1+1=2だと思っていたものが、そのプロセスを通してやっぱり1+1は2だと確認するような、そういう納得感が大切だと思うのです。コヴィー博士がおっしゃるとおり、皆さんが同じように納得できるのであれば、最終的にアウトプットされたものよりも、そのプロセスがとても大切だと思います。

●個人のミッション・ステートメント作成のプロセス

 それは個人も同じです。例えば朝起きてみたときに、「やっぱり俺ってここに来たんだよな、結局」という納得感を持てるということです。個人のプロセスで考えると、例えば一日の1時間あるいは2時間、静かなところで時間を取るということです。リビングで皆がテレビを見ている中で考えることはできません。

 私たちが、毎日の生活や社会、家庭の中で、いろいろなチャレンジや経験を通して、パラダイム・シフトした時などは、今までのミッションは違って見えてくると思います。ミッションを定期的に見直すということは、毎週あるいは毎日でも検討していただきたいと思います。ミッションを、推敲を重ねてリライトするには、定期的に、個人的に、静かな時間や空間で行っていただきたいと思います。

 ただ、パラダイム・シフト、人生の目覚まし時計とも表現されますが、何らかの節目の時に、見直しは不定期に突然のように訪れてきたりします。そんなときには、自分自身ともう一度静かな時間・空間で対峙して、「自分のミッションはこれでいいのだろうか、もっと新たな、あるいは追加が必要か」というようなことを考える、そんなタイミングなのではないかと思います。だから定期的に見直すのと同時に、目覚まし時計が鳴ったときにも、自分自身に向かい合うということを通して、そこに一つアウトプットして形にすることを是非お勧めしたいと思います。

 研修でも、「今日という日は、これからの人生のスタートだ」と言われた方がおられました。「今日というのが、残りの人生の最初の日だ」と言えるように生きることができたら、どんなに素晴らしく、またあるべき方向に向かって進むことができることでしょう。まずは、目覚まし時計が鳴った瞬間に、自分なりのWhy、コンパス、今日自分は何に貢献をしていくのかを確認してから、今日やるべきことに取り組んでいただきたいと思います。それを確認しなくとも、やるべきことは変わらないかもしれませんが、やるべきことがミッションに紐付いていることを確認できることが大切だと思うのです。そんな感覚を持つことができたら、毎日の充実感、満足感が違ってくると思います。(談)