週刊「7つの週刊」日本元気化計画 元気には原則があった!
竹村富士徳の「7つの習慣」実践マガジン|リーダーシップや戦略実行、タイム・マネジメントの講師として活躍する竹村富士徳が、「7つの習慣」を実践するにはどうしたらいいのか、そのポイントを連載でお届けします。

第4回:P/PCバランスを考える

竹村富士徳
フランクリン・コヴィー・ジャパン取締役副社長として経営に携わりながら、コンサルタントやファシリテーターとしても活躍。リーダーシップや戦略実行、タイム・マネジメントなど、幅広いジャンルで、コンテンツのコンセプト作りから開発まで深く関わる。雑誌などのメディアへの登場も多数。

●P/PCバランスとは?

 P/PCバランスという言葉を多くの方々がご存じだと思いますが、それは効果性の原則と言われています。ここのところがなかなか知られていないので、それを強調させていただきます。7つの習慣は、7 Habits of the highly effective peopleなので、非常に効果性が高い方々の習慣であり、目的は効果性を高めることです。
 たくさんの原則がありながら、このP/PCバランスのところが、効果性の原則と題されているという点は、非常に重要なポイントだと考えています。まず効果性の定義ですが、望む結果を得続けている状態となります。望む結果をある瞬間に得るだけではなくて、それが得続けている状態のことを、効果性が非常に高い状態だと定義しています。ですから、P/PCバランスが必要です。
 それはなぜかというと、PはProduction、PCはProduction Capability、目標達成と目標達成能力になります。短期的な結果を得たいということであればProduction(目標達成)に注力すればいい。ところが、先ほどの効果性の定義、得続けていくということであれば、Production Capability(目標達成能力)にも注力しないと、私達は真の意味での、長期にわたる効果性を発揮することができないということになります。したがって、PとPCのバランス、いわゆるこのP/PCバランスが必要であり、これこそがまさに効果性の原則だと言われている理由にもなっているわけです。
 7つの習慣の中では、自分自身の目標達成能力を高めることを考えた場合、金の卵と金の卵を産むガチョウの喩えで紹介されています。この金の卵を産むガチョウをビジネス・パーソンだとすれば、これが自分自身と捉えることができます。いろいろな切り口はありますが、その中で一番わかりやすいのは、「第7の習慣 刃を研ぐ」にある、肉体、知性、社会情緒、精神という4つの側面から自分自身を磨くことにあたります。自分自身つまりガチョウを養い、Pに対してより大きな、また継続的な影響力を拡大していく、そんな力を付けていくというように理解していただけたらいいと思います。

●4つの側面のバランスを考える

 

 P/PCを高くするには、「第7の習慣 刃を研ぐ」にある4つの側面(肉体、知性、情緒的側面、精神)を磨くということになります。最近ビジネスマンの間でも、例えば朝活(朝に自分で勉強する)、資格の勉強をしたり、通信講座をやったりとか、非常にたくさんの方が教育という面で投資されています。それも一つのPC活動と呼んでもいいでしょう。
 ただ、これは第7の習慣に関わってきますが、自分自身のPC活動として、そこの中で4つの側面のバランスが大切になります。例えば朝活、資格、通信教育などは、ややもすると知性の部分が非常に大きいですから。
 コヴィー博士が、第7の習慣の中で毎日の私的成功と言っているのは、そこは社会情緒以外の肉体、知性、精神の3つに毎日取り組むことによって、毎日の私的成功を積むということです。そして自分自身のPC活動を継続することで習慣化することが大事だと言われています。自分自身の刃を研ぐ時でも、どこかに偏ることがないように、特に肉体、それからあとは知性、精神とのバランスもとっていただけたらいいと思います。
 毎日の私的成功となると、かなり時間的な制約もあったりしますので、どれくらいの時間を割いたらいいか悩むかもしれません。これは第3の習慣の時間管理の部分が参考になります。可能であれば、もしくは最低限と言わせていただいてもいいのかもしれませんが、1日の1%の時間、約15分弱くらいの時間を確保したらいかがでしょうか。少なくともそれぞれの側面に対して、1日1%の時間を充てることです。
 例えば1%の時間に本を読んだり何かの学習をする。1%の時間で何かストレッチなのかランニングをする。それから1%の時間で、自分の精神的な充足感を感じることができる活動をするという具合です。全部行っても3%ならば、無理なくいけるのではないかと思います。是非それを第Ⅱ領域の活動(緊急ではないが重要な事柄)、大きな石として、定期的に毎日の生活の中に習慣化することができるような、そんな時間枠をとることを是非お勧めしたいと思います。

●インプットとアウトプットのバランス

 一方、7つの習慣の中に、PC活動のやり過ぎというような話も出てきます。例えばバイオリンの調弦ばかりして、演奏する機会がなかったりなどです。ビジネス・パーソンの方々の中にも大変勉強熱心な方がおられますが、なかなかアウトプットの時間がないとか、機会がないという方もおられるようです。それのバランスはどのように考えればいいのでしょうか。
 先ほど第Ⅱ領域活動と言いましたが、その領域は7つの習慣を学ばれている方々は、非常にいいものだと捉えておれると思います。自分自身の効果性、生産性を上げるためにも必要な活動です。ただし、これが過大になると、全てのことが第Ⅳ領域の活動に陥ってしまうことになります。つまり緊急でも重要でもない活動になってしまうので、あくまで第Ⅱ領域の範疇ということにしていただきたいと思います。
 それから、インプットとアウトプットのバランスですが、これも非常に大切です。前述の毎日の私的成功のところは個人の範囲で収まってしまいますが、インプットとアウトプットのバランスを取るには相乗効果を発揮することがポイントになります。4つの側面(肉体、知性、社会情緒、精神)が相乗効果を発揮するには、社会情緒のところをうまく使うことです。学んだこと、自分自身が充足感を感じたこと、肉体として力を得たことを、社会情緒の中で他の方々にどうやってアウトプットするのか、貢献することができるのかを考えます。そのところのバランスをとっていくことも必要だと思います。ですから、是非とも第Ⅱ領域の範疇で、他の人たちに対してアウトプットすることを大切にしていただけたらいいと思いす。
 例えば会社は業績が厳しくなったりすると、とたんに教育費を削るとか、PC活動の時間や経費を削ってしまう傾向にあります。そこを削った分だけ余計に働け、みたいな感じです。P/PCバランスに逆行しています。英語でよく言われる表現のDo more with lessです。いわゆる、もっとたくさんのことを、より少ない資源、時間、人数、リソースでやっていきなさいということです。
 今まさにそんな時代ですし、ますますその傾向って強くなってくるのではないかなと思います。実際私どもが研修させていただいている会社様は、研修そのものがPC活動ですので、きっと研修にも呼ばれない会社様が、そういうところって強いのではないかと思います。ただ、私達がこの業界にいてはっきり感じるのは、短期的な成果だけではなくて、組織としても効果性を高めるために、このP/PCバランスがとれている企業が、結局のところ成功しているということです。
 確かに、個人としても企業としても、短期的にどうしても今ここで火事場のくそ力のように、Pだけにフォーカスをしなければならない瞬間もあると思います。しかし、それがずっと継続すると、完全に7つの習慣の刃を研ぐの逆バージョンであるburn out(燃え尽き)になってしまいます。
 それによって、いわゆるガチョウも死んでしまうという状況になります。ですから、そのような期間があったとしても、できるだけ短期間に抑えて、そしてそれを習慣化することなく、できる限り組織としても第Ⅱ領域活動やPC活動に取り組んでいくことが必要です。ただ、自分自身の影響の範囲の中で、組織としてそのような働きかけがえきない立場におられる方々は、むしろ個人のレベルのところで、先ほどお勧めしたような、1日のほんのわずかな時間でも構わないので、個人として第Ⅱ領域活動、大きな石、刃を研ぐ活動、個人の毎日の私的成功、ここだけは絶対に譲れないという思いで、是非取り組んでみていただけたらと思います。

●長期的なスパンでPCに取り組む

 これだけ変化が激しい時代ともなると、なかなか10年、20年というわけにはいかないと思いますが、期間的な目星の付け方みたいなものが必要です。失われた10年といわれたのが、今20数年になっているような経済環境の中で、アメリカやEUの経済策を日本も追随してきている中で、いわゆる先駆者である彼らが混迷を極めている状態ですから、どれくらいの期間を考えたらいいか難しいと思います。
 ですから、むしろ開き直って、向こう3ヵ月や半年先のことがわからないのであれば、個人レベルとして毎日の中でどんな事柄を積み上げていくことができるのに、もっともっとフォーカスをしていかなければならないと思います。
 ビジネス・パーソンが、例えば1年後あるいは2年後に向けて計画を立て、勉強を続けて、こうなりたいうといと考えていることもあろうかと思います。しかし、いろいろな変化が起きて自分の思うようにいかないことが多いようです。そういう変化が続く中で、どういった心持ちでPC活動に取り組んでいけばいいのか、悩むところです。
 最初に思い浮かぶのは、キャリアの中でクランボルツ教授が提唱されたPlanned Happenstance Theoryということです。これは、アメリカのビジネス・パーソンのキャリアを調査した結果、80%の方々が、いわゆる計画されたものではなくて、偶然にできた事柄でキャリアが形成されたという、衝撃的な理論です。当時は、何か将来を設計して、そこにキャリアパスを描いて、その階段を上るようにというのが通常だったのですが、むしろ偶然によって出来上がっている、というようなものでした。
 ただその中で、一つだけクランボルツ教授がいわれた条件があって、それは能動的に、つまり主体的に物事に自ら取り組んでいる方々には、より好ましい偶然が起こるということです。つまり、私達のビジネス環境はなかなか先行き不透明であり、企業の中にいて自分自身が刃を研いだからといって、先々どんな風なものになっていくかっていうのかわかりません。
 だとしても、主体的に自らリーダーシップを発揮して、率先して自分自身の刃を研ぎ続ける方々は、より好ましい偶然だったりとか、より望ましい方向に向かって進んでいく確率を高めることができるということです。これはもう、実際のデータで検証済みです。ですから、今見えないからといって、そこで止めてしまうのではなく、まだ見えないけれども、自分自身が毎日の積み重ねの中で何かチャンスが来た時に、それをつかむことができるように、その刃を研ぎ続けることが大切だということです。自分自身の影響の輪の中でできることを、是非決意しながらやり続けていただきたいと思います。

●信頼の預け入れ

 PC活動は自分一人のものではなくて、当然チームなどで働いている方に関しては、同僚、上司、部下といった人間関係の中でPC活動を行います。第7の習慣には4つの側面があり、毎日の私的成功で肉体、知性、精神を磨くことになりますので、もう一つ毎日の公的成功という観点で社会情緒の大切さについて強調させていただきます。
 私達が、毎日意図的・自主的にできることは、きっと信頼の預け入れということではないかと思います。よく研修の中で、信頼の引き出しと預け入れ、ざっとリストを作ります。リストを作り、具体的な活動を挙げていただいて、眺めてみた時にどちらをやっていますかってお尋ねすると、結構引き出すことをやることが多かったりします。この預け入れと引き出しの違いは何かというと、もう一つの観点であるパラダイムは、意図的にやっているか、ないしは無意識でやっているかの違いにあります。
 引き出す方って悪気はないのですが、無意識でやってしまっていることが多いようです。逆に預け入れる方は、自分自身が意図的・自主的にならなければ、なかなかやれないことが多い。ですから、社会情緒の刃を研ぐ時に是非お勧めしたいのは、意図的かつ意識的に相手の大切なものを大切にしてあげるということです。相手が望む結果以上の、期待されている以上のものを何かお返ししていくということです。
 そのような信頼の預け入れを、継続的に繰り返すことによって、自分自身のガチョウの中にある社会情緒の側面を養い育てていくことができるのです。こんなところも、毎日の公的成功というところで、是非意識的にやっていっていただけたら、さらに効果性が高まってくるのではないと考えます。
 その信頼の預け入れによって、お互いの信頼関係が高まる。それによってお互いの仕事、あるいはその関係によって、もっと相乗効果が起きたり、大きな仕事ができようになるということです。お互いの信頼関係がより強まっていくと同時に、相手の方に対しての自分自身の影響の輪を拡大していくことができる、そんなところも、価値としてはあるのではないかと思います。(談)