「権限委譲され責任を持った社員が実行すれば元気になり、会社も元気になる」と堀紘一氏は話します。
経営コンサルタントの第一人者。19年に亘る会社戦略事業戦略の立案、並びに企業風土の改革や活性化に関わるコンサルティングの豊富な経験を生かし、2000年に「もう一回人生にチャレンジを」と、株式会社ドリームインキュベータを設立。ベンチャー企業の育成および大企業の戦略策定・実行支援のコンサルティングを行っている。『「もう一度会いたい」と思われる人になれ!』『正しい失敗の法則』(PHP研究所)、『一流の人は空気を読まない』(角川書店)など著書多数。
現在、日本の第1次産業を元気にするために、農林漁業成長産業化支援機構の会長を無報酬で務めています。農林漁業をビジネスの視点から見れば、儲けているのは従事者ではなく、加工メーカーや流通業者だと思われている点もあります。そこで、理想論に聞こえるかもしれませんが、みんなで良い思いができるよう、農業者が事業主になる事業を考えた訳です。
1次産業の農林漁業、2次産業の工業、3次産業の流通業が手を携えて新たな事業を展開しようと、1×2×3=6次産業の創出を目指しています。まさにシナジーによる1次産業の元気化です。農林漁業には事業資金が不足しているので官民ファンドを軸に広く投資を呼び込むことで事業化を図ろうというスキームです。
回収できなかったらどうすると心配する人がおられるので、私は今まで戦後何十年も農業に毎年何兆円も支援してきて浜の真砂に消える水のごとく消えてしまったのだから、今回の投資も消えてもいいのではないかと開き直ることにしています(笑)。
万一回収できなくとも、農業者が「我々だけが汗をかいてりのではなく、2次や3次の人も汗をかいて工夫をしているから儲かる。我々もそういうマインドセットになって、もっと工夫しなくてはならない」という気持ちになるだけでもプラスだと思うのです。
ファンドや銀行と6次産業が一緒になって、ビジネスを盛り上げていければいいのです。一種の投資です。うまくいくかわからないと言っていては、前に進めません。人真似は簡単ですが、人と違うことをやらなければ新しいこともできず、元気になることはできません。
私はボストン・コンサルティング・グループにいた30年前、日本で最初にインターンシップを始めました。インターシップ期間中に学生といろいろな話をして、学生の性格や何を考えているのか、会社に向いているのか向いてないのかを考えるわけです。一方、学生も、先輩はどんな人たちで、実際の仕事を通じて会社の様子を判断したわけです。
当時は就職協定を破るような企業もあり非常に不健全な時代でしたので、それに真正面から立ち向かったためさんざん叩かれました。ボストン・コンサルティング・グループが外資系の小さな企業であり、就職協定に加入してないこともありできたことでした。
ウィンタージョブやサマージョブ、インターンまで導入して、お互いに相性を確かめてから就職を決めるようにしたわけです。その時は毛虫みたいに扱われましたが、今ではインターンシップは一般的になりました。それこそ評論するのではなく、行動を起こして(行論家として)いろいろやってきました。
当社の採用は入社一年目の社員に全権委任しています。採用人数だけを決めて、採用の方法や採否決定も一任しています。例えば14人採用するとすれば、社員1年生は学生を7人採用します。それには二つの理由があります。
まず新入社員は学生に最も近いので彼らを良く理解できるからです。私が面接して行儀良くもっともらしいことを言われるとだまされかねません。しかし、新入社員は本能的におかしいとわかります。また、学生も親しみやすいし、聞きにくい質問もできます。
もう一つは、新入社員が意思決定とは何かを体験できるからです。リーダーは常に選択を迫られます。誰もができる決定は誰にでもできます。誰もが迷うことを決めて責任を負うのがリーダーです。新入社員からリーダーシップを鍛えられるので成長するわけです。
だから、当社では26歳でもマネージャーになることができます。どうして育てるのかと聞かれるのですが、権限委譲して責任を持たせて、意思決定させればいいのです。もし失敗したら、フォローするのは我々大人の仕事です。若い人は前に進まないとダメです。若いうちからおどおどして「失敗するのではないか」と考えていては、とても前に進むことはできません。
当社は非常に地味ですが、とても元気です。親会社だけでなく子会社のキャッシュフローも充分あり、株や商標権などからも利益が上がります。何でそうなるのか不思議なのですが(笑)。変なことでなければ、社員がやりたいと言うことはできるだけやらせてあげようと考えているからだと思います。そうすれば社員が元気になり、会社も元気になるからです。
例えば、ゲーム事業をやりたい二人がいました。私は彼らの経歴に合っている感じがしなかったので反対したのですが、二人は「堀さんは、どうしてもやりたいという情熱があったらやってもいい。それがドリームインキュベータのいいところだと話している」ということを楯にされたので、予算の限度額と期限を決めて取り組ませました。
反対の理由の一つは「ゲームは金銭的に儲かるかもしれないけれど、どうも社会的に貢献しているような気がしない」ということ、もう一つは「君たちの頭がいいことは認めるけれど、頭が良いことと面白いゲーム作るのは全く違う才能だ」という点でした。
期間と予算をオーバーしたら中止するということで開発したのはいいのですが、さっぱり売れないゲームでした。結局失敗したのですが、当事者は二つ学習します。一つは「ああそうか、やっぱりこういうことだった」ということ、もう一つは「堀の言うことはそんなに間違っていないから、もっと真剣に意見を聞かなくてはいけない」と思うことです。
こういう僕のやり方に対し、株主に対して無責任だという人もおられます。しかし、「この会社はそういう自由な雰囲気があって、若い人たちがいろいろやりたいことを無理矢理抑え込まないから、会社は成長し倒産していない。それをよしとするならこの会社を認めて欲しいし、ダメなら別の会社に投資した方がいい」ということを僕は申し上げています。
命令されて従うのではなく、失敗から学んで実行する、これが本当のリーダーシップだと思います。社員自らが実行して元気になれば、会社も元気になるはずです。(談)
西川りゅうじん氏 商業開発研究所レゾン所長