週刊「7つの週刊」日本元気化計画 元気には原則があった!
イノベーションが日本を元気にする!米倉誠一郎氏 一橋大学イノベーション研究センター 教授

日本が元気になるにはどうしたらいいのか? 「イノベーションこそが日本を元気にするが、一人ひとりが元気じゃないのに、国や社会や企業が元気なわけがない」と米倉誠一郎氏は語ります。

米倉誠一郎(よねくら・せいいちろう)

一橋大学イノベーション研究センター 教授
一橋大学 社会学部および経済学部卒業。同大学院 社会学研究科修士課程修了。ハーバード大学 歴史学博士号取得。1995年、一橋大学 商学部産業経営研究所教授に就任、97年より同大学イノベーション研究センター教授。2009年より日本元気塾塾長。主な著書に、『創発的破壊 未来をつくるイノベーション』(ミシマ社)、『経営革命の構造』(岩波新書)など。

●イノベーションと基本原則

 コヴィー博士は『7つの習慣』にせよ『第3の案』(いずれもキングベアー出版)にせよ、すべて基本原則がベースになるという考え方を示しています。これは、とても大事なことだと思います。どんなこともすべて基本原則の中でやっていくからこそ、日々の習慣や考え方、あるいは自分自身の体のつくり方などを通して、自分自身が大きく変わっていくのです。これは、全部イノベーションの発想と同じでありイノベーションという基軸を重視するということです。
 つまり、新しい価値を持ってくるということであり、それはパラダイム・シフト以外の何物でもありません。自分の周りにある価値を新しく再定義できないと、日本の「失われた20年」の繰り返しになってしまいます。
 常に「新しい価値を提供し続けているのか」を問われるという点では、個人のレベル、家庭のレベル、社会のレベル、学校のレベル、企業のレベル、さらに国のレベル、全部同じです。すでにあるものを組み合わせて、新しい価値を創出していくことが大切です。オーストリアの経済学者シュンペーター風にいうと、new combinationとなります。

●イノベーションに不可欠なシナジー

 違った意見を持ち寄ることが重要なのに、日本ではどうしても同じ意見を集めたがる傾向にあります。また、せっかく異なる意見が出ていても、イノベーションを生み出す術がないために、1+1=1以下になってしまうこともある。異なる意見を妥協によってまとめようとするからです。
 「いつも同じ意見を言う二人いたら、一人はいらない」のです。今の日本の経営や社会では、皆、同じことをやりがちです。異なる意見でもシナジーを創り出すことによって1+1が3や4以上になりますから、イノベーションこそシナジーが不可欠です。
 やり方を変えないと、新しいことは生まれません。同じやり方を続けていると、現状維持すらできず、どんどん引き算になっていくだけです。しかも、日本の場合は均一なものを採りたがるので、事態はより深刻です。

●アントレプレナーシップこそイノベーションの源泉

 日本には良いところも悪いところもたくさんあります。アメリカも同じです。両者が混在していて、どこか一つだけをスパッと切り取れるものではないので、二項対立的な思考はやめて、皆で新しいパラダイムをつくるべきです。
 たとえば、アップルのスティーブ・ジョブスはとても個性的な人でした。それでも彼には強い思いがあり、影響の輪に集中することで世の中を動かしました。人間なんて強欲でもいいと思うのです。ただ、実際はそれでは儲かりません。特に長期的には儲からない。お金などいらない、いい商品を届けて人々の笑顔を見たい。そう思った瞬間、入ってくるものがお金です。
 破天荒というか、自由にやっているようで、継続的に成功している人は、実はきちんと原則に従っています。たぶん、強欲なことをしているうちに、お金だけではなかったと目覚めるのです。
 その一方で、ケインズが言うところの「アニマル・スピリット」みたいなものは、いつの時代も変わらず大事なことだと思います。アニマル・スピリットこそアントレプレナーシップ(起業家精神)であり、アントレプレナーシップこそイノベーションの源泉です。

※本稿は「Effectiveness.jp」に掲載した記事をアレンジしたものです。