セミナー開催前に読む The Empowerment 対談|ボイスを発見して影響力を発揮する|井上和幸 株式会社 経営JP 代表取締役社長・CEO × 竹村富士徳 フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社 取締役副社長
●自分自身にコアがあるということが大切
竹村
一人ひとりが自らの中に方向性を見出して前に進んでいかねばならない。そういう激動の時代にあって、リーダーたちはどのようにリーダーシップを発揮していったらいいのでしょうか。いわゆるエンパワーメントということがすごく難しい時代になってきました。
井上
本当に難しいと思います。たとえば、一つの組織の中で、右と言っているメンバーがいる、左と言っているメンバーがいる、前と言っているメンバーがいる、後ろと言っているメンバーがいる。これを全部認めないのはおかしい、みたいなダイバーシティ論をよく見ますが、僕はこれ、おかしいと思うんです。
竹村
確かに(笑)。ダイバーシティって要は多様性を許容しようということだと思いますが……。
井上
大事なことだと思いますけど、会社が本をつくろうというときに、「僕はパンを焼きます」じゃ、まったくベクトルが合ってないじゃないですか(笑)。求めるものが会社の価値観と違うのであれば、その中で無理に戦う必要はないわけで、自分の価値観に合う会社はどこなのか、そこを考えていく方向感覚が大事になってくると思うのです。
竹村
やり方に関しては多様性というものを吸収してフル活用しつつも、方向性に関しては皆が同じ方向を向いていないとだめですね。
井上
そもそも採用時に、自分の会社に来てもらうべき人材をきちんと選んでいるのかという問題があると思います。その意味で、当社はエントリー・マネジメントということをすごく大事にしています。新卒であれ、マネジメント層であれ、本質的な部分で価値観が合っているかどうか、採る側も受ける側もちゃんと選ぶべきです。
竹村
採用面接の際に私が一番大切にしているのは、その人の「意図」なんです。何のためにここに来て、私たちと会っているのか。そして、この会社で一緒に仕事をすることが本当の意味でWin-Winになると考えているのか。そこの部分を必ず確認します。エントリーする時点において、そこが必要最低限のポイントだと考えています。
井上
これはいいことを教えていただきました(笑)。ぜひ、活用させていただきます。
竹村
うちを志望される方は、ほぼ100%「7つの習慣」のファンなんです。すごく好きだからそれに携わることができたらという、非常にありがたいお話ですが、悪い言い方をすると自己満足に過ぎないんですね。「この会社に入って、どんなことをして貢献したいのか」という、最も重要な部分が欠落しているわけですから。
井上
その辺りは当社の採用面接でもまったく同じですね。
竹村
逆に、そこのところで何か共鳴できたりすると、ポジションはなくてもとりあえず入ってもらったりします(笑)。その人がどうやって自分自身のwillを使って、どういうビジネスにつなげてくれるのか、そういう期待があるからエンパワーメントしていけるという部分が確実にありますから。影響力を及ぼすための要件とでもいいましょうか。結局、そういうことがベースになると考えています。
井上
そのためにはリーダー自身にもコアがないとだめですね。まず、自分にコアがあるというのが第一で、そこに共鳴できるものをスタッフに対して求めていく。この求めていく力というのも、リーダーには必要なものだと思います。
●楽しみながら個々の力を引き出していくハッピーなリーダー像
竹村
エンパワーメントという言葉は「権限委譲」と訳されることが多いのですが、本来の意味は「どれだけ力を引き出していくか」ということです。
エンパワーメントすること、すなわち、一人ひとりがリーダーシップを発揮できるよう働きかけていくのがリーダーの役割であるならば、その力を引き出していく原動力となりうるものにフォーカスしていく必要がある。そして、その原動力というのは、たぶん個々のボイスの中にあるという気がします。
これはそれぞれのwillにかかってくる部分ですから、そこに会社のmustと世の中のニーズを結びつけてあげる。もしcanの部分が足りなかったら、力を引き出し、機会を与えて、その人の成長につなげていく。リーダーとしてそんなエンパワーメントができたら理想的です。
井上
今日の正解が、明日の正解とは限らない。そういう厳しい状況の中で、どうやって現場の力を引き出していけばいいのか、どうしたらメンバーがハッピーになってくれるのか。そう考えていくと、変わり続けることや成長し続けることを、メンバーと一緒に楽しみながらやり続けていける。それがハッピーなリーダー像かなという気がします。
●成功し続ける人には人格が備わっている
竹村
井上さんがこれまでお会いになってきたリーダーの方々に共通する要素というと、どんなものになりますか。
井上
そうですね、活躍し続けている方々には能力と人格の両方が備わっているように思います。短期の成功ならば能力のほうでブレークすることもありますけど、継続性ということを考えると、人格的なものが足りない方の場合はだいたい数年内に破綻しています。
竹村
『7つの習慣』の原書タイトルには、effectiveという言葉が入っていまして、日本語では効果性と訳していますが、平たくいうと「望む結果を得続ける」という意味です。瞬間最大風速的に成功を得るのではなく、継続的な成功という観点で考えてみると、人格と能力のバランスがいかに重要であるかがわかります。根っことしての人格的な要素は、いつまでもどこまでもその人についてきますから、私どもとしてもどうしても譲れない部分です。
井上
短期的な波風はどの方にもありますけど、3~5年以上のスパンで見たとき、恵まれていたり幸せそうだったり、いろいろなものがいい方向にある方と、そうでない方の差って、やはり人間性の部分だなというのは、見てきて強く感じるところです。
竹村
それ以外に、影響力を発揮するリーダーとして、ここは欠かせないだろうと思われる要件ってありますか。
井上
突き詰めていくと、貢献だと思います。
竹村
貢献ですか。自分のことじゃなく利他的な思いとか、そういうことでしょうか。
井上
そうです。ある面、職人のこだわり的な部分というか。モノをつくる日本人にはけっこう多い習性じゃないかと思いますが、僕らみたいなサービス業とかコンサルティングの仕事でも同じです。
この案件で徹底的にいい成果を出したいと思ったとき、クライアントのためにやれることは損得抜きに突き詰めていく。傍から見たら「何でそこまでやるの?」みたいな。そういうものを心根として持っている人がやっぱり強いですね。
経営者の立場としては、できるところまではやるけれど、あるところまでで止めることも大事で、そこはきちんと押さえておかないとまずい。ただ、エグゼクティブの方々とお話ししていると、内在的にそういったステークホルダーへの貢献みたいなものがベースラインとしてありますね。
竹村
影響力を発揮するリーダーの要件として、貢献という内在的なベースラインがあるというのは、興味深いご指摘ですね。
●ほとばしる情熱と真の自立を手の内に入れる
井上
それに加えて、好奇心ですかね。「なんで? どうしてなの、これ?」とか「何が流行ってるの?」とか「これ、面白いね」みたいな。いろいろなことに興味があって、のめり込んでいく習性のようなものがあるような気がします。
結果論ですけど、皆さん、お会いしたときの印象が、快活で、エネルギーがあって、ユーモアがある。総じてそういう傾向になるのはなぜかなと考えてみたのですが、貢献モードみたいなものと好奇心モードみたいなもの、その二つのベクトルがすごく強い方たちではないかと思います。
竹村
情熱がほとばしるみたいな。
井上
皆さん、まさにそんな感じです。たぶん、スタートラインが自分自身の好奇心だったり情熱だったり、そういうところから発動しているので、相手が必ずしも評価してくれなくても、すぐにリターンが得られなくても、あまり頓着しない。もちろん、「何だよ~」とは思うのでしょうが、ベースとしてはわりとステーブルに受け止めている印象があります。
竹村
ある意味、泰然としているわけですね。誰かのために何かをしたい気持ちにせよ、自分自身の興味を追求する気持ちにせよ、内的な強い衝動から来ていると、周囲の反応はあまり気にならないのかもしれませんね。
井上
自分が頑張っているのに評価がついてこないと、逆ギレモードになる方って、マネジメント層にも意外と多い。「なんで認めないんだ!」とか「俺様に対してそんな処遇を!」みたいな、「7つの習慣」でいうところの反応的な人っています。そういう人は、やはりリーダーとしてはちょっと弱いと思います。
その反応自体は別に間違っているとも思わないのですが、そういう受け止め方をしてしまうと、結果としてあまり報われないような気がします。成功し続けている人とはまったく逆の価値観です。
竹村
たぶん依存的なんでしょうね。周囲に影響力を与える人というのは、別の言い方をすれば、真に自立していますから。
井上
そうですね、自立しています。
竹村
周囲に影響を及ぼすほどの熱を放ちながら、その一方で自立している。人として成熟しているというのは、そういうことなのかもしれませんね。
コヴィー博士は、『第8の習慣』の中で、物質的な成功とか社会的な権威の偉大さは、人格的な成熟とか道徳的権威の偉大さの結果として生まれるものだと語っていますが、本当にその通りだと思います。
変化の時代、激流の時代だからこそ、状況や環境に左右されることのない人格の力なしには、リーダーシップを発揮することも、影響力を発揮することも、難しくなっているのではないでしょうか。
井上
方法論やテクニックでやっていこうとすると、やはり弱い。活躍し続けているリーダーの方々は、まるで歯を磨くように、そういった習慣を身につけています。今度のセミナーでは、そういう志高きリーダーたちのリーダーシップについても、しっかりお伝えしていけたらと思っています。
竹村
とても楽しみです。よろしくお願いいたします。