スペシャル・トーク|「7つの習慣」でストレスをコントロールする|横浜クリニック院長 青木 晃 × マーケティング・コンサルタント 西川りゅうじん × フランクリン・コヴィー・ジャパン株式会社取締役副社長 竹村富士徳

アンチエイジング(抗加齢)医学のフィールドに早くからフォーカスし、健康長寿の推進に八面六臂の活躍を続けている青木晃氏。厚生労働省「健康寿命をのばそう運動」のスーパーバイザーも務めるマーケティングコンサルタントの西川りゅうじん氏、弊社 取締役副社長 竹村富士徳とともに、ストレスが私たちにもたらすさまざまな影響と上手なつきあい方について、大いに語り合っていただきました。

青木 晃(あおき・あきら)
1961年 東京都生まれ。1988年 防衛医科大学医学部卒業。自衛隊医官として防衛庁に勤務。恵比寿アンチエイジングクリニック院長、順天堂大学大学院医学研究科加齢制御医学講座准教授を経て、がんの免疫療法に特化した横浜クリニックを開設。多くの生活習慣病患者、がん患者の診療を通し、「老化が病気を引き起こす」という観点から、日本の生活習慣病、がん疾患の撲滅のための診療・研究・教育を実践している。日本抗加齢医学会専門医。日本抗加齢医学会評議員。日本健康医療学会常任理事。
西川りゅうじん(にしかわ・りゅうじん)
1960年 神戸市生まれ。一橋大学経済学部・法学部卒業。在学中に企画プロデュース事務所を起業。「ウォークマン」の販売促進、「ジュリアナ東京」のPR、「六本木ヒルズ」の商業開発、「愛・地球博」の"モリゾーとキッコロ"や「平城遷都1300年祭」の“せんとくん”の選定・広報、「つくばエクスプレス」沿線PR、焼酎の全国的な人気づくり、高知県「龍馬博」の総合プロデュースなど、産業と地域の元気化に手腕を発揮。厚生労働省「健康寿命をのばそう運動」スーパーバイザーを務める。

●我々のストレスのスイッチは飢餓である

竹村
このたび、「7つの習慣」実践シリーズとして『ストレス・フリー』という本を出すことになりました。さまざまなストレスに「7つの習慣」を使って対応していこうという内容なのですが、アンチエイジング医学の権威であられる青木先生からご覧になって、ストレスというのはどのような位置づけになりますか。
青木
抗加齢、すなわちアンチエイジングの医学というのは、美容外科や美容皮膚科的なものとはちょっと別物で、基本的には健康長寿のための予防医学、内科的な医学なんですね。そして、現代人とストレスを切り離すことはできませんから、アンチエイジング医学においても、ストレスをどういなしていくかというのは非常に重要なポイントです。
西川
健康長寿のための予防医学とは、具体的にはどのようなものでしょうか。
青木
アンチエイジング医学が面白いのは、従来のような「病気を治す医療」ではなくて、「健康をレベルアップする医療」だという点です。検査も病気があるかないかではなくて、体内でどこが老化しているか、脳年齢、血管年齢、ホルモン年齢、筋年齢、骨年齢などを測るわけです。その結果、「脳年齢が進んでいるようだから、ちょっと脳トレをしなさい」というようなアドバイスを行うんですね。臨床的には、①食、②運動、③メンタルケアの3つが重要な柱になります。
竹村
それはわかりやすいですね。
青木
食の場合、基本的には腹八分です。太古の昔、人類にとって最大のストレスは飢餓でした。だから、食べられないときにこそ、体の中のメカニズムが、「なにくそ、こんちくしょう、ここを生き延びてやるぞ」とばかりに作用する。飢餓のストレスが軽く入った状態、すなわち適切なカロリー制限を行うと、個体の長寿遺伝子が活性化することが医学的にほぼ実証されています。

どういうことかというと、現代文明社会に生きる私たちは飽食な日々を過ごしています。こういう状況下ではサーチュインという長寿遺伝子は眠っていて働いていません。しかし、飢餓ストレスが入るとそれが目覚め、細胞のミトコンドリアが活性化されエネルギー効率を高めるのです。サーチュイン遺伝子のスイッチがONになると、まるで指揮者のごとく体全体に指令を出し、100近くの老化要因を抑えるのです。
西川
「腹八分に医者いらず」と言う通りですね。眠っていた体の機能を覚醒させるということですか。
青木
そういうことですね。これだけ自由に食べられる世の中で、腹八分に抑えると少なからずストレスになりますが、その少なからずのストレス信号が絶えず入ってくることによって、アンチエイジングのメカニズムが活性化すると見られています。

●適度なストレスが人体を活性化させる

竹村
運動の場合はどうなんでしょうか?
青木
適度な運動を継続することですね。運動すると体の中で活性酸素が出ます。これは酸化ストレスという一種のストレスです。食においても運動においても、適度なストレスが有効なことは変わりません。
西川
活性酸素は、健康とアンチエイジングの敵だというのが一般的認識ですが。
青木
鉄を空気中に放置しておくと赤く錆びてしまうように、細胞レベルでも酸化によって老化が促進されることがわかっています。ですから、活性酸素による酸化ストレスというのは、人体にとって本来はあまりありがたくないものです。

ところが、ある研究によると、抗酸化サプリメントをたくさん飲ませて、有酸素運動をしたときに出る活性酸素ストレスをできるだけ消すという実験をしてみたところ、かえって糖尿病や動脈硬化などいわゆる生活習慣病の症状が進行して、老化が進む方向に向かうことがわかったんです。
西川
悪者の活性酸素を全部消してしまうと、逆に良くないんですね。
青木
そうです。軽度な運動、特に有酸素運動ですね、そういうものによって適度な酸化ストレスを受けると、そのストレスを少なくして、「長く生きよう、元気にいよう」というモードになって、自ら抗酸化力をつくるわけです。

これはメンタルにおいても同様で、まったくストレスがないような状況で生きている人間のほうが、寿命が短いというデータがあるんです。
竹村
不思議ですねえ。

●メンタルをうまくコントロールするには生きがいを持つこと

青木
ということで、食も運動も、そして精神面でも、ストレスを全部消してしまうと、健康長寿にとってはマイナスに働くということがわかってきました。
西川
一定のストレスは、実は自分自身の味方でもあるんですね。
青木
ただし、大きなストレスを一気に受けたり、長期にわたって継続的に入ったりすると、体内のメカニズムによって膨大な活性酸素が出ることもわかっています。大量の活性酸素は細胞を傷つけて老化を促進しますから、やはりメンタルのストレスをどう御していくかということが、アンチエイジングにとっては非常に重要なミッションになってくるわけです。
竹村
具体的には、どんな方法が考えられますか。
青木
長期的には、何か、目的とか目標とか夢を持つことですね。我々のフィールドでいうところの「生きがい」というものです。
西川
『7つの習慣』で説かれている通りですね。
青木
長期といっても、1年先でも半年先でもいいですし、「今月の終わりにはこうしよう」程度でもかまいません。生きがいがあれば、さまざまなストレスに対して「ここで負けていられない」というスイッチがまず働きますから。大それたものである必要はまったくなくて、未来に向けて何がしかの目標とか目的とかを持っている人のほうが、やはりアンチエイジング的であるということです。

もう一つ重要なことは、毎日の生活の中で何か楽しいことを一つ見つけることです。仕事が終わったら映画を見に行こうとか、美味しいものを食べに行こうとか。日々の中のささやかなご褒美みたいなものですね。
竹村
今、青木先生がおっしゃった、未来に向けて具体的な目標を持ったり、日々の中で小さな達成感を重ねることで、自信が持てるようになっていくというのは、まさに『7つの習慣』の考え方そのものです。「主体的に行動する」という、ただそれだけで、さまざまなストレスから自分を守ることができる。それが医学的にも証明されてきているということですね。
青木
はい、それを上手にやれる人は、ストレス抵抗性が高いことがわかっています。

●毎日の生活習慣をどのように実現していくか

竹村
ストレスがまったくないのも過重なのも健康によろしくない、ということはよく理解できました。ですが、今回のこの『ストレス・フリー』には「ストレスのない人生を送る」と書いてあるんですよね(笑)。これ、どうなんでしょう?
青木
おそらくストレスをまったくフリーにするという意味ではないように思います。
西川
ストレスをゼロにするのではなく、ストレスから解放されるという意味合いが強いのではないでしょうか。
竹村
ちょうどいいストレスの塩梅というのはわかっているのですか。
青木
食事においては先ほども言ったように腹八分、運動ならば、適度な有酸素運動というと、毎日5キロ走るくらいでしょうか。これが倍の10キロになると過度な活性酸素の量になってしまいます。原始時代の狩りって、30分間5キロくらい走り回ってだめならその日は獲物を諦めていたようですから、それでこのあたりがちょうどいいという風なメカニズムになっているのかなと思うんです。
竹村
なるほど。当然、個人差はあるのでしょうけれど。
青木
もちろんです。アンチエイジング医学はその閾値(いきち)を見つけるために、どんなものをどのくらい食べたらいいのか、どのくらいの運動をどの程度続けたらいいのか、どういう種類のメンタルストレスがどのくらいかかる分には良くて、どのくらいかかるとダメなのか。そこのエビデンスを出すことがすごく重要なんですね。
西川
からだの慣れもありますね。運動していない人がいきなり運動するのは良くないでしょうから、やはり徐々に運動する習慣をつけていくことですね。
青木
「生きるとは何か」といえば食うことであり、では「食うために何をするか」というのが、そもそもの原点です。そこを踏まえて、それぞれの食や運動やメンタルケアがあるわけです。このあたりのことを掘り下げていくと、現代のストレスに対する人体の反応や、その対処法について、なんらかのヒントが得られるのではないかと考えています。
竹村
コヴィー博士が提唱する「人格主義の回復」とは、習慣というものを通して人格をつくっていこうとするものであり、「今の習慣を変えて、より豊かな人生を生きましょう」ということですから、青木先生がアンチエイジングというものを通して実現しようとされていることと非常に近いものがあるように思います。
青木
ええ、この本にも書いてあるとおり、まさに習慣です。医療の言葉でいうと、毎日の生活習慣をどういう風に実現できるかということに尽きますね。
西川・竹村
本日は、さまざまなご示唆と気付きを、ありがとうございました。