スティーブン・R・コヴィー博士が答える『第3の案』に関するQ&A

『第3の案』は『7つの習慣』とどのように関係しているのですか?

本書は『7つの習慣』から派生しています。あの本の中で私は、第3の案のことを「触媒的な役割を果たし、力を付与し、一体化させ、最も重要なもの」と書きました。『7つの習慣』では、第3の案については一般的な説明にとどまっていましたが、本書ではもっとずっと幅広く、深く掘り下げています。

第3の案のコンセプトを教えてください。

ほとんどの対立は、白か黒の二者択一です。「自分のチーム」と「相手のチーム」という対立軸になり、私のチームは良く、あなたのチームは悪い、少なくとも「あまり良くない」というように考えてしまいます。このような考え方に凝り固まってうたら、2つの選択肢しか見えません。闘うか、適当なところで妥協するか、どちらかしかないのです。

しかし、ほとんどの場合に第3の案があります。あなたの方法でも、私の方法でもない方法。もっと良い方法、お互いに考えたこともなかった方法です。第3の案は対立を解決するだけでなく、対立を乗り越えるのです。

第3の案を探す質問とは何ですか?

「お互いにこれまで考えたことのない第3の案を探してみないか?」と問いかけるのです。このような問いかけはなかなかできるものではありません。しかしこれこそ、対立を解決し、そして将来を変える鍵なのです。それまでの対立を捨て、創造的な可能性に心を開く。謙虚になって、答えはどちらも持っていないことを認めてはじめて、希望が見えてくるのです。

二者択一思考とは何ですか? 二者択一の考え方が蔓延しているのはなぜですか?

二者択一思考の人には、協力は眼中になく、競争しか見えません。常に「我々対彼ら」の視点です。二者択一の考え方をしていては、間違ったジレンマに陥ってしまいます。「私のやり方に従え、でなければ別の道を行け」という姿勢です。このような人には青か黄色しか見えません。緑色は絶対に見えないのです。

二者択一思考が蔓延しているのは、私たちのアイデンティティが自分の中にある「案」に捕らわれているからです。だれにでも、自分なりの意見、信念、視点、偏見、思い込みがあります。自分の中に深く根づいている考え方が攻撃されると、自分の知性と価値観までもが攻撃されたように思う。しかし第3の案を探すための質問は攻撃ではありません。一緒に解決策を探そうと、誘っているのです。

第3の案と妥協はどのように違うのですか?

妥協は、相手から譲歩を引き出すために自分も何かを譲歩する、あるいはあきらめることです。したがって両者とも負けです。第3の案は、それとは正反対であり、ふたりとも勝つ。どちらも何も失わないのですから、お互いが期待していたよりもはるかに良い結果になります。しかしそのためには、最初に望んでいた結果にこだわらず、そこから一歩離れて考えなくてはなりません。

第3の案はどんな状況のなかでも見出せるのですか?

二者択一の状況のほとんどは「間違ったジレンマ」です。しかしほとんどどんな場合でも第3の案はあります。ただし、対立の一方の側に捕らわれていては、第3の案に到達することはできません。相手を尊重し、共感することによって、そのような束縛から解き放たれるのです。

シナジーの原則について教えてください。

第3の案に至る道はシナジーです。シナジーは、1+1が10になり、1000にもなる。何人かがお互いを尊重して力を合わせ、先入観を捨てれば、どんなに困難な問題にも立ち向かえます。それまでの現実よりもずっと良い新しい現実を創造することへの情熱、誠意、興奮が生まれれば、それがシナジーです。

シナジーという奇跡の原則は、いたるところで働いています。セコイアは根を絡ませて張ることによって、強い風に耐え、信じられない高さにまで成長します。鳥の一群がV字形をとって飛べば、羽ばたきで生じる上昇気流に乗り、単独で飛ぶときの2倍の距離を飛べるのです。

2本の木材を重ねれば、1本で支えられる重さの合計をはるかに超える重さに耐えられる。こうした例では、全体が部分の総和を上回っているのです。

シナジーに至る4つのステップとは何ですか。

1. まずこう問いかけます。「お互いに考えたことのない解決策を探してみないか?」 あくまでも、さまざまなアイデアを出す思考実験としてスタートします。

2. つぎに、「より良い結果はどのようなものだと思う?」と質問します。ここでは、なにをすべきかを明確に思い描き、お互いがこだわっている要求を超え、両方が満足する結果の基準を決めます。

3. 基準が決まったら、それを満たす解決策として考えられるものを試していきます。プロトタイプを作ったり、新しい枠組みをブレーンストーミングしたり、あるいはまったく逆の視点から考えてみたりします。ここではまだアイデアの良し悪しの判断は控えます。極端な可能性を試してみることができなければ、シナジーは生まれません。

4. その場に興奮の渦ができたら、シナジーに到達した証拠です。躊躇や対立はきれいになくなります。ダイナミックな創造力が湧き上がったときが、成功間違いない第3の案が生まれた瞬間です。それが第3の案であるかどうかはすぐにわかります。

第3の案を探す考え方のパラダイムは何ですか?

パラダイムとは、私たちの行動に影響を与える考え方です。たとえば、世界が平らだと考える人には、水平線に消えていく帆は絶対に見えません。

第3の案の1番目のパラダイムは、自分自身をかけがえのない個人とみなすことです。独立した個人として判断し、行動できる人間とみなすのです。第3の案を探すには、まず自分を客観的に見て、自分の偏見や思い込みを分析しなければならないからです。

2番目のパラダイムは、他者を対立するグループの一員ではなく、独立した個人とみなすことです。私たちは、他者の個性、能力、才能に目を向けているでしょうか? おそらく、その人に対して抱いているイメージにとらわれた見方はしているはずです。

3番目のパラダイムは、対立の場面で自分を防御するのではなく、対立する視点を意識的に明らかにすることです。対立する考え方がなければ、シナジーは起こりようがありません。私は長年繰り返し言っているのですが、二人の人間が同じ意見なら、どちらか一人は不要なのです。考え方の違いがなく、均質な世界でシナジーが起こるわけがありません。

最後4番目のパラダイムは、だれもそれまで考えてもみなかった解決策を探すとき、別の視点をむやみに否定したり、攻撃したりするのではなく、正しいとか間違っているといった判断を超えて考えることです。

第3の案を探す考え方は、どんな場面や分野で使えるのですか?

家庭、職場、学校など、人間同士の交流があるところならどこでも使えますし、対立の場面ではなおさら、第3の案を探す姿勢が求められます。問題解決と意思決定においてはとくに重要です。交渉人は第3の案を探すエキスパートであるべきですし、クリエイティブな仕事をしているチームにはなくてはならないものです。

第3の案を探す考え方は、組織のリーダーシップにどのように活かせますか?

中間管理職からCEOまで組織のリーダーにとって、第3の案を探す能力以上に求められるものはないでしょう。企業が競争相手を上回れるかどうかは、この能力にかかっています。画期的なイノベーションを生み出す鍵であり、大きな取引の交渉においても、社内の対立の解決においても、より良い第3の案を探そうとしないリーダーは、それだけで遅れをとってしまいます。

従来の交渉と第3の案を探す交渉の違いは何ですか?

従来の交渉では、まず両者とも相手が受け入れそうもない提案をし、話しあいをしながら歩み寄り、どこかで妥協点を見出します。これは両方が負ける「Lose-Lose」です。それとは対照的に第3の案を探す交渉ではまず、それぞれの提案を上回るものを探すことで合意します。創造的な思考実験を行いながら、お互いに思ってもみなかった案、両方が満足する「Win-Win」の案を生み出すのです。

第3の案を探す考え方で家族のなかの問題も解決できますか?

家族での対立は、二者択一思考の典型的な副産物です。「私は正しい、あなたは間違っている」という考え方です。第3の案を探すなら、こうした対立を回避できるでしょう。「あなたの考え方は私とは違うから、話を聴かせてほしい」という態度になるからです。そうすれば、相手の立場になって話を聴く「感情移入による傾聴」ができます。感情移入による傾聴は第3の案に到達するためには不可欠な条件です。共感は理解を生み、理解は新たな洞察を生み、やがて問題を解決する意外な可能性が見えてきます。第3の案を探す習慣を確立している家庭は、無意味な争いはせず、家族の絆を強めます。

学生なら、学校でぶつかるさまざまな問題に第3の案を探す考え方をどのように使えますか?

私の息子のひとりは、大学を卒業するためにとらなければならない単位がありました。ところがその授業はもう定員に達していており、席がないと言われたというのです。私は第3の案を考えなさいとアドバイスしました。すると息子は、教室に椅子を持ち込みました。登録はしていませんでしたが、すべての講義を聴き、他の学生よりも必死に勉強し、教授は根負けして息子の受講を認めました。学校では、第3の案を探す考え方で解決できない問題はほとんどありません。

子どもの学校生活がうまくいくように、親は第3の案を探す考え方をどのように使えばよいでしょうか?

第3の案を探す名人は、決して「それはだめだ」とは言いません。そこが肝心な点です。必ず第3の案があるのです。このような人たちは、豊かな機知と主体性を駆使して第3の案を見つけ出し、子どもを教育します。同じように、第3の案を探す模範を示す親に育てられる子どもは、学校でも力を発揮します。なにか問題にぶつかっても、必ずより良い解決策があることを知っているからです。

第3の案を探す考え方は、訴訟社会の改善に役立ちますか?

訴訟には多額の資金と膨大な労力がつぎ込まれています。しかし第3の案を探す考え方を持てば、このような浪費は回避できますし、またそうあるべきでしょう。相手を尊重し、共感し、シナジーを起こすというパラダイムに従えば、ほとんどすべての訴訟は絆を強くするチャンスに変えられ、裁判で得られる結果よりも良い解決策を見いだせるのです。

あなたがいま訴訟に関わっているのなら、自分を擁護するのではなく、相手の話を聴き、相手の立場を理解する努力をしてみてください。本気になって話を聴き、相手が満足いくまで相手の立場を理解するのです。相手に共感すれば、相手もあなたに共感するのです。そうなれば、シナジーを起こす解決策が生まれます。実際のところ、訴訟ではどちらも勝者にはなれません。しかしシナジーを起こせば、どちらも勝てるのです。

第3の案を探す考え方は、医療をめぐる議論にも応用できますか? この議論を間違ったジレンマとしているのはなぜですか?

医療をめぐる大論争は、誤った前提に立っています。すべての人々に低料金で質の高い医療を提供することなど無理だ、という前提です。革新的な考えでシナジーを起こす人々は、このジレンマが間違っていることを証明しています。ひとつ顕著な例を紹介しましょう。フロリダ州タンパにあるグレッグ・ノーマン博士のクリニックは、難病の治療を専門としていますが、治療費を低く抑えながら大成功を収めています。ノーマン博士は、医療界にはきわめて珍しく第3の案を探す考え方の持ち主であり、医療をめぐる二者択一の論争を無意味なものにしています。

第3の案を探す考え方は、世界の舞台、国際政治の領域では、どのような役割をはたすのですか?

外交が政治的な駆け引きであるかぎり、対立はなくなりません。平和を実現するにはパラダイムの転換が必要です。相手の話を聴き、理解しなければ、パラダイムを変えることはできません。相手を本気で理解しようという態度で話を聴くと、たいてい相手は驚きます。そしてしだいに怒りがおさまり、お互いにこだわっていた立場を超えて、第3の案を探す心の準備ができるのです。

スイスは1840年代に内戦状態となり、分裂の危機に直面しました。現在のスイスは、多様な言語、民族、宗教が存在するにもかかわらず、むしろそのおかげかもしれませんが、まさにシナジーのお手本のような国になっています。世界で最も生産性が高く、効率的で、繁栄を遂げている国のひとつであり、対立のパラダイムを超越し、より良いあり方を選択しています。スイスは第3の案を実践している国なのです。

クレッシェンドの人生を生きるとはどのような意味ですか?

私はよく「クレッシェンドの人生」という言葉を使います。年齢を重ねるごとに小さくなっていく人生ではなく、創造的で、革新的で、刺激的な第3の案の体験を求める人生です。あなたの持前は何でしょう? そのほかにどのようなことで貢献できるでしょうか? あなたがこれから成し遂げる最高の仕事は何でしょうか? 私たちの世界が突きつける厳しい問題にあなたが答えを見つけることを、周りの人々は待ち望んでいることでしょう。知性と感情のシナジーによって答えを出したなら、目的のある有意義な人生という恵みを得られるのです。